第48章 〜
俺は馬から落ちた時に手から離してしまった刀を広い上げると、弓を放った男の死骸に近づき、その心臓に刀を渾身の力で突き刺した。
事切れてはいたが、男からは血が吹き出して俺の顔や鎧を汚していく。
無駄だと頭では分かっていながらも、身体は自分の意識とは無関係に動き、何度も男の体を切りつけた。
「くそっ...なんで俺じゃなくて...くそっ.....」
顔にかかる血も、とめどなく流れる涙を拭うことも無く俺は膝から崩れ落ちた。
(...なんで優良なんだよ...なんで最後に気を抜いた...なんで...)
刀を突き刺したまま動かない俺に、全ての成り行きを見守っていた家臣が恐る恐る声をかけた。
「...秀吉様...心中お察しします...ですが早くここを去らなければなりません...」
「..........」
「...秀吉様!」
家臣に名前を呼ばれて我に返った。
「...そうだな...」
(俺には...まだ仕事が残ってる...)
ゆっくりと立ち上がり、血で汚れ顔も分からなくなってしまった男から刀を抜き、血を払い落として鞘に収めた。
「...去るぞ。」
「はっ。」
俺の一声を聞いた家臣達は、それぞれに陣営へ向かい出す。
家臣の1人が馬を引き連れて、手綱を俺に差し出した。
「...ちょっと待ってくれ」
俺はゆっくりと優良に近づくと、膝まづいて胸に刺さった矢を優しく引き抜いた。
そして身体を肩に乗せてから手綱を受け取り、馬に跨った。
(お前を1人ここに残して行けない...俺が責任持って連れて帰ってやる...)
俺の行動を見ていた家臣が、心配そうに声をかけてきた。
「秀吉様...」
「こいつは俺が葬る。頼む、見逃せ」
俺が力なく微笑みながらそう言うと、家臣は泣きそうな顔で大人しく引き下がった。