第46章 ~46~
「全くなんなの……」
(ぶつかって謝りもしないなんて……あんな女の子達に好かれて何が嬉しいんだか……)
中々治まらない苛立ちをなんとか抑えながら、店へと繋がる道を早足で歩く。
(……そういえば、秀吉様は私の顔見て驚いた顔してたな。会ったことなんてないのに)
いくら安土城下に住んでるとはいえ、武将達を生で見る機会は滅多にない。
彼等が戦へ向かう時か、城下に降りてくる時には見かける事もあるそうだが、私は興味が無い。
城の使いの人が来てうちの甘味を買っていくこともあるが、多分秀吉様は来たことが無いはず。
人の顔を覚えるのは商売上得意だけど、店に来てわざわざ武将だと自己紹介する人もいないから、確かではないけども。
考え事をしながら歩いていると、いつの間にか店に着いていた。
(まあ、私には関係ないし。いっか。)
気持ちを入れ替えて中に入って砂糖を机に置いた。
「お父ちゃん、お待たせ」
「おう。随分かかったな。」
「まあね……」
「なにしけた面してんだ?うちの看板娘がよぉ」
「はいはい」
私はさっきの出来事を忘れたようと心に決めた。
まだ小言を言いたそうなお父ちゃんを振り切って気分を変えるために、さっき貰った金平糖を1粒食べようと袖裏に手を入れた。
「あれ?」
確かに左の袖裏に貰った金平糖を閉まったはずなのに、いくら探しても見つからない。
「落とした……?」
思い当たるのは、あの時しかない。
「ぶつかった時に落としたんだ……」
私はがっくりと項垂れた。
そんな私をみて、お父ちゃんは能天気にも話しかける。
「どうした、いいからほら、早く店出ろ」
「……はーい」
(お父ちゃんがお使いなんて頼まなきゃ……まあ、そうしたら金平糖も貰えなかったけど)
溜息を付いてから、店に出た。
生憎、まだお客さんは来ていない。
(あーあ、金平糖なんて中々食べられないのに……。もう戻っても誰かに拾われてるだろうなぁ……)
「今日ついてないなぁ……」
私は盛大に溜息をつくと、気合を入れるために両頬をパチンと叩いた。
「よし!」
(過ぎたことはしょうがない。今は仕事に集中!)
気合を入れたと同時に、今日1番目のお客さんがやってきて、笑顔で出迎えた。