第36章 〜36〜
「さん、勉強してるの?」
「え?」
「ごめん、机の上にドリルが見えたから」
宴に向かう前、机に開きっぱなしでおいたままの本を思い出す。
「ああ、うん。現代とは使われる漢字とか言葉が違う事結構あるでしょ?だから、少しでも慣れようと思って……筆で書くのも慣れてないし……」
「そうだね、偉いね。さんは」
「そんなことないよ。この時代で生きていくなら出来ないよりは出来た方がいいかなって思ったんだ。」
「へぇ」
「それでね、佐助くん」
私はお茶を佐助くんに差し出しながら言った。
「現代の持ち物どうしたらいいと思う?」
「現代の持ち物?」
「そう。私がこっちに飛ばされた時持ってた鞄とか……スマホとか……」
私は押し入れの襖を開けて、鞄を引っ張り出した。
「これ。着てた服はね、本能寺で所々燃えて、着られなくなったから捨ててもらったんだけど、荷物は必死に抱えてたせいもあって無事なの。」
私は鞄を佐助くんと自分の間に置いた。
「……別に思い出として持っていてもいいんじゃないかな?」
「うーん、それも思ったんだけど……」
鞄を開きながら、奥底に沈めたガイドブックを取り出す。
「これとか取っておいて、もし誰かの目に触れたらやばいかなって」
「……イケメン戦国武将……。こういうの好きなの?」
佐助くんは真面目な顔で私を見た。
「まさか。仕事に役立つかなと思って買っただけ。」
「仕事?」
「うん。私イタリアンのシェフでね。京都の和菓子をイタリアンのデザートに取り入れりないかと思って京都に来てたんだ。」
私がガイドブックのページを捲って、和菓子特集のページを開く。
「へぇ、美味しそう」
「でしょ?まあ、結局全然食べられないでこっち来ちゃったんだけど……」
佐助くんはペラペラとガイドブックを見て呟いた。