第34章 〜34〜
「たしかに……政宗のおかげでもあります。でも、政宗だけじゃなくて、優鞠も……秀吉さんも家康も三成君も光秀さんもそして信長様も。皆が優しくしてくださるからこの時代に来てから暇だと思う時間もありません」
「ほう。幸せなことだな」
「はい。ありがたいです 」
私が笑うのを横目で見た信長様は、何かを思い出したように私を見た。
「……貴様、腕を見せてみろ」
「え、腕?」
「ああ。本能寺で怪我をしたであろう」
「ああ、もう痛くはないですよ」
私はそう言いながら着物の袖を軽く捲って信長様に見せた。
信長様は盃を置くと、指先でまだ痛々しく残る傷にそっと触れた。
その仕草と慈悲を含んだ目が妙に色っぽく見えて、少しだけドキッとした。
「……痕が残るだろうな」
「かも知れませんね。でも、あの時も言いましたけど大丈夫です。」
「女の癖に、お前はおかしな奴だ」
「そうですか?」
「ああ。普通女なら、身体に傷痕など残ろうものなら、もっと悲観するものであろう」
「うーん……そうかもしれませんね。でも……今思えば、名誉の傷かなって」
「何が名誉だ?」
私は微笑みながら信長様に言う。
「天下の織田信長を救った時に出来た傷ですよ?そんな名誉なこと中々ありませんからね」
「ふ、お前も大概うつけ者だな」
信長様は笑いながら盃を再び煽った。
「ふふ、だから傷痕が残ってもいいんです。見れば必ず信長様の事を思い出しますし、その度きっと信長様に感謝します」
私がそう言うと、信長様は面白そうに喉を鳴らす。
「お前、その台詞あやつの前で言うな。下らん嫉妬で睨まれるのは御免だ」
「……睨むなんて……」
そう言いながら政宗を見ると、明らかに不機嫌そうな顔でこちらを見ていた政宗と目が合ってぷいっと逸らされた。
(……可愛い……もしかして焼きもち妬いてる?)
「酌はもう良い。行ってやれ。」
「はい。失礼しますね」