第32章 〜32〜
私が心の内を吐き出すと、目の前に秀吉様が座り直した。
驚いて顔を上げると、秀吉様は優しい笑顔で私を見下ろしていた。
「……お前と初めて会った時の事を思い出していた」
「……え?」
「最初、お前を見た時に姫と呼ばれた割に、なんて無表情な女だろうと思った。」
「…………」
「でも、その何を考えているか分からない顔が妙に気になってな。城に戻ってから、あの大名への対処が決まった時も、撃ち落とすために再び向かった時も、どうにかお前を助けようと考えていた。」
「…………」
「城が崩れていく中、お前を見つけて、話を聞いていくうちに、やっぱりお前を助けようとして良かったと思ったが……」
「……?」
「今が一番そう思う。」
「今……?」
「あぁ。最近のお前は楽しそうだ。」
「……はい。秀吉様のおかげです……」
「いや。俺はただお前にきっかけを与えただけに過ぎない。昔辛いことがあっても生き抜いてきたのも、ここに来て改めて女中として奮起して働いたのも、全部お前自身の成果だ。」
「……そうでしょうか」
「ああ。お前の心が死んでないと、そう思った俺は正解だったな」
「心……」
「ああ。あの時、お前が殺してくれと、もし俺にそう願えばそうしてやったかも知れない。でも、お前は生きることを選んだ。そこでお前はお前の人生に勝ったんだ。」
「……それは秀吉様が……」
「でも、決めたのはお前だろう」
「……はい。」
「お前が今、や他の家臣や女中達と楽しそうに過ごしていることが俺にはたまらなく嬉しい。」
「秀吉様……」