第32章 〜32〜
「優鞠、申し訳なかったな」
「……え?どういう事でしょう?」
「お前……元は織田家の傘下の家の生まれだと言ったな」
「ええ。小さい家でしたので、秀吉様はご存知ないかも知れませんが……」
「でも、お前の父親は織田軍の戦で命を落とした。」
「……そう……ですね……でも、別に誰かを恨んだりはしていません。この乱世では、戦へ行って無事に帰れる事が稀な事くらい私にもわかります。」
「それはそうだが……一家の柱を亡くし、母親も亡くしたお前に、何もしてやれなかった。」
「そんな……」
「親父殿の織田軍への忠義、感謝する。信長様に変わって礼を言う。」
そう言って頭を下げた。
今更なにをしても、失われた命は戻らない。
そんな事は痛いほどわかっている。
ふと浮かんだ女の顔を打ち消した。
「……秀吉様……」
「今更だが……悪かったな……」
「いえ……。今のお言葉で、父も母も報われたと思います。ありがとうございます。」
「だといいがな」
「父は……信長様のお考えに感動し、お仕え出来ることを心から嬉しく思っていました。信長様のために戦って命果てても、悔いはなかったと思います……。そしてそのような有難いお言葉まで頂けて……本当にありがとうございます……」
優鞠はそう言って、目に涙を溜めながらも、凛とした顔で頭を下げた。
「俺がしたいと思っただけだ。気にするな。」
「……はい。それでも……私は嬉しいのです。ありがとうございます。」