第32章 〜32〜
「……私を殺さないのですか」
「……殺してほしいのか」
「……さぁ……貴方がそうなさるなら、私は受け入れるしか無いでしょう」
女は無表情のまま、城から目を離し俺の顔を見つめた。
死を覚悟している、というよりは全てにおいて諦めていると言った表情だった。
「……お前は、あの大名の養子では無かったのか」
「そう思うのも無理はないでしょう。先日、貴方とお会いした時には、私は姫でしたからね」
「その格好は……この城の女中だろう?何故姫と紹介されたお前が……」
「何故と言われましても、こちらが本当の私です。姫……いえ、そもそもあの男の養子ですらありません。」
「……どういう事だ?」
「……話せば長くなります。それに……私が姫でも女中でも、貴方には関係のない事です」
そういった瞬間、女の顔は少しだけ苦痛に歪んだ気がした。
「そうかもしれない。だが、俺がお前を何故だか無性に助けてやりたくなってるんだ。その俺ためにも、話せ。」
俺が助けたいと、そう口にすると女は驚いたように目を見開いた。
「助けたい……?」
「ああ。お前のその全てを諦めた顔は見てられないんだ。昔の俺を思い出す。」
「…………」
「無理にとは言わない。だが、俺に話せば少しくらいお前の未来を明るくさせる事が出来るかもしれない。」
「…………」
「ほら、長くなってもいい。話してみろ」
「……っ……」
俺が優しい声で促すと、女の目に溜まった涙がほろりと頬へ零れ落ちた。
1滴流れたと思ったら、涙はとめどなく溢れ出た。
(……こいつの心はまだ死んでない。)
子供のように泣きじゃくる女の頭を優しく撫でた。