第32章 〜32〜
刀を鞘に戻し、近くに居た家臣に声をかける。
「おい、大名は捕らえて城へ連れていけ。」
「は。」
「捉えた家臣達は逃がしていい」
「……良いのですか」
「ああ、どうせ嫌々こいつに仕えてた様だ。仇討ちなど考えないだろう。それに元は農民だと調べは付いてるし、信長様がそう決めた。家に返してやれ」
「は。」
「あと、不正に押収していた米や作物なども全て外へ出せ。後にこの領地の民に振り分ける。全員外に出たのを確認したら声をかけろ。この城は壊す。」
「かしこまりました。」
走り去る家臣を見送り、一息ついた。
「さてと」
慌ただしい城内を後にし、外に逃げ出した者達を掻き分けあの女を探す。
(どこだ?まさかまだ中に……死ぬ気か……)
それならばそれでもいいのかもしれない。
あんな顔をして生き続けるなら。
でも、どんな人間もきっかけさえあれば生きる希望を見つけられる。
自分が信長様に生かされたように、あの女にもそうして欲しいと心の奥で思っていた。
「秀吉様、既に中に人は残っておりません。」
「そうか……。かかれ。」
家臣にそう言った後も、女の事が気になり崩れ行く城の周りを歩き続けた。
裏側に辿り着くと、女中が崩れていく城を呆然と眺めていた。
(あいつ、そこに居たら危ないだろ……)
そう思って駆け出そうとすると、その女中があの時の姫だと気がついた。
「お前……」
俺に気がついたのか、女は俺を見てうっすらと微笑んだように見えた。
近づいて腕を掴んで、有無を言わさず離れた場所へ連れていく。
「危ないだろ」
「……そうですね」
女はそんなこと気にもしてない風に言った。
目は崩れていく城を見たままで。
その顔からは、悲しみという感情は読み取れず、俺は不思議で仕方がなかった。