第32章 〜32〜
それから数日後、光秀の調べであの大名の裏が取れたとの報告があった。
裏切り者として領地を織田軍のものとする為に、大名を襲撃する事が決定され、その役目は俺に任された。
兵を集め、再び大名の元へと向かった。
(もし……あの女が命乞いをしたら……。逃がしてやるくらいは出来る)
特別な思いはそこには無かった。
ただ、あの女が望んであの大名の元に居ることを選んだとはどうしても思えなかった。
自分の良心で、できる限りの事をしてやるつもりだった。
(女が政や戦の材料になるのは見てられない。望んでそうなったならまだしも、あいつは多分違う)
城につき、大名を探した。
すぐに見つかった大名は、突然現れた俺達に怯えて固まっている。
その姿があまりにも無様で、鼻で笑い飛ばした。
信長様が決めた処遇を冷たく言い捨て刀を抜くと、大名は青ざめた顔で慌てて頭を下げた。
「ひ、秀吉様……どうかお命だけは……」
「この期に及んで命乞いか、お前はやっぱり大馬鹿者だな。さては、何故俺に刀を向かられるのかもわからないんじゃないだろうな?」
刀を大名の顔スレスレに振り下ろす。
「この城と共に崩れ落ちるのと、今後領地取りに参戦しないで大人しく隠居するか選ばせてやる」
俺がそう言うと、大名は青い顔で刀を抜いた。
「ほう、死ぬ覚悟がお前にあるのか」
「……こうなったら、お前を倒して……」
そう言うと同時に大名は震える太刀筋で俺に切りかかる。
「そんなんで、俺に勝てると思ってるのか?」
刀がぶつかり合い、押し返すと簡単に大名は刀を手放し、無残に床に転げ落ちた。
「ったく、なんでお前ごときが領地を収められていたのか不思議だな」
当たりを見回すと、この大名の家臣は力なく捕えられているものと既に逃げ出していて誰も大名を守ろうというものは一人もいなかった。