第32章 〜32〜
優鞠が昔仕えていた大名は、本当に往生際の悪い、見ていて吐き気のする様な男だった。
優鞠と初めて俺が会ったのは、その大名が開いた会合だった。
本来は信長様を呼びたかった様だが、信長様は俺に変わりに顔を出してこいと仰った。
そして、大名の元へ向かうと会合とは名ばかりで信長様に取り付きたい大名の俺へのご機嫌取りで、終始不快な思いをした事を覚えている。
その大名は、噂で信長様に対立する武将へも支援を行っているという疑惑があり、織田軍としても調査を進めている途中だった。
(確にこいつの領地は織田軍としては見過ごせないが……こいつを織田軍に入れ込むのは……ナシだな)
もてなされた酒を飲みながら、今にも揉み手を始めて擦り寄ってきそうな大名を横目に見た。
(よくもまあぬけぬけと……織田軍がお前の裏の顔を知らないとでも本気で思ってるのか……馬鹿野郎だな……)
会合に顔を出した事により、俺の仕事は終わったも同然。
大名や家臣のの様子を視察する事が裏の使命だったが、どう見たってこいつは黒だ。
笑顔がとてつもなく胡散臭いし、家臣達もどう見たって大名を信頼しているようには見えない。
調べは済んだと、俺が立ち上がるとそれに気がついた大名が顔を青くして俺の腕を掴んだ。
「……秀吉様、何かご無礼がありましたでしょうか……」
「いや、問題ない。お前の事は信長様によく伝えておく」
「ありがとうございます……ですが、せっかく遠い我が家まで起こし頂いたのです……もう少しごゆっくり……」
(やけに必死だな……それが余計印象悪くなるとわからねぇのか……)
掴まれた手を切り離してやりたい気持ちを抑え、ため息を付きながら座り直すと、大名は安心したように言った。
「今、姫を呼んでまいります。是非会ってやってくだされ……」
大名はそう言うと、近くにいた家臣を顎で使い、その家臣は無表情で立ち去った。
(姫ねぇ……その姫を是非信長様の正室にとでもいうんじゃねぇだうな……にしても姫ってこいつの娘か?どうせ大したことねぇだろ……)
新たに注がれた酒を飲み干し、姫とやらに一言挨拶したら帰ると心に決めた。