第26章 〜26〜
「ねぇ……」
「ん?何?」
「優鞠はさ……誰か好きな人いる?」
「え……いきなりどうしたの?」
「別に……気になったから聞いてみただけ」
「そう……」
「で?居るの?」
「……居ないよ」
優鞠は悲しそうにまた微笑んだ。
「……ほんとに?」
「うん……」
(その顔……居ないなんて嘘だ……そして多分、それは俺じゃない……)
無表情で考え込む家康に、優鞠が不安がって恐る恐る声をかける。
「……家康……?」
「ごめん、今の忘れて」
「え……うん。わかった」
優鞠は家康の前にお茶を出す。
そのお茶を飲みながら一息つく。
(困らせたいわけじゃない。優鞠が違う男を好いてるなら……俺の方に向かせるように頑張ればいいんだ。)
「優鞠、これ」
家康は先ほど買った簪を優鞠に差し出す。
「なに?」
「開けてみて」
「……簪?」
「さっき城下を歩いてたら目について。優鞠に……似合うかなって……」
「綺麗……あ、菊だ……」
優鞠はきらきらした目で簪を見つめている。
その顔はさっきの悲しい笑顔ではなく、家康はほっとした。
「あげる」
「……いいの?」
「優鞠のために買ったから。返されても困る」
「でも……」
「……優鞠」
「……ありがとう……」
「うん」
簪を胸に抱いてお礼を言う優鞠が愛らしくて、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られた。