第18章 彼の為なら。・:+°家康。・:+°
「もういいです。」
スッと立ち上がり、信長様の酌に向かおうとすると右腕を政宗に、左腕を光秀に捕まれ座らされる。
「まぁまぁ落ち着け。」
「じゃあからかうの止めて下さい。」
「わかったわかった。まぁ飲め。」
機嫌を損ねた夕霧に杯を持たせ、酒を注ぎながら政宗が笑う。
「せっかくだ。家康がお前の隣にいない日なんてなかなかない。こんな珍しい時だ。悩みでもあれば聞くぞ。」
光秀もいつもと少し違うくつろいだ笑顔で空になった杯に酒を注いだ。
「そうだな。悩みじゃなくても、聞いて欲しい事があればよかったら聞くぞ。」
秀吉も目を細め、優しく語りかける。
確かに・・・そうかもしれない。
家康といつも一緒・・・それが幸せで、何にも困った事や悩みは無いんだけど、こんな時だからこそみんなに話を聞いてもらうのも悪くないかもしれない。
「ありがとう・・・そうだね。じゃあ聞いてもらおうかな。」
その時、秀吉を除く二人の目が怪しく光ったが、夕霧は知る筈も無く。
「で、話したい事はなんだ?」
「えっと・・・」
「「「家康が喜ぶ事を考えてくれ!?」」」
「うん・・・そう。」
何でみんな目を丸くしているんだろう・・・
「変な事言ったかな?」
不思議そうに尋ねる夕霧に秀吉が優しく声をかける。
「いや、そうじゃない・・・続けてくれ」
三人は予想していた答えと余りにもかけ離れ過ぎていて驚いていた。
家康がああしてくれない。こうしてくれと言われる。文句が出るとばかり思っていたのだ。
面白おかしく相談に乗ってやるつもりでいたのだが・・・
蓋を開けてみれば惚気のような話に三人・・・と言うより二人は残念で仕方なかった。
「家康にいろいろしてあげようとしてもね、自分でするからあんたのやりたい事に時間を使いなって言われちゃって・・・」
「つまり、世話を焼きたいんだな。」
「ここにその職人がいるじゃねぇか。」
「俺は職人じゃねえ。」
「世話を焼きたいって言うのもあるんだけど、男の人ってどんな事をしてもらうと嬉しいのかなって・・・」
夕霧は気恥しそうに三人を見つめた。