第14章 兄と弟。・:+°信長、家康。・:+°
「馬鹿馬鹿しい・・・俺は戻ります。」
スッと立ち上がった家康を低い声が呼び止めた。
「貴様、そんなに嫌か。」
「嫌です。」
「もう良い、下がれ。」
「では、失礼します。」
家康は何事も無かった様に襖に向かう。
「夕霧・・・童の頃の面白い話ならいくらでもしてやる。あやつが帰った後でな。」
ダダダダダッとすごい勢いで戻り座り直す家康・・・。
「何を言うつもりですか・・・?」
「夕霧が聞きたい事を聞かれたままに答えるつもりだが。」
信長の笑みを見て顔が引き攣る家康。
「少しなら・・・付き合います。」
家康は思う。
厄介だ・・・。
信長様が夕霧に何を話すのか・・・考えるだけで恐ろしい。
信長様に出会った頃は数えで6歳・・・幼い頃故に知られたくない事もある。
普段は我儘など言う事もない夕霧が願えば、信長様が聞き届けない訳が無い。
そのお陰で記憶にない様な昔の話を聞かれるんだからたまったものではない。
今川の人質にされていた時とは違い、織田に居た頃は本当に良くしてもらったんだけど・・・
「お二人は何をして遊んでいたんですか?」
では・・・と夕霧は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに質問する。
「家康とは九つ離れているからな。剣術の稽古を付けたり、水泳を教えたり、・・・」
「教えたって言うより無理やり付き合わされたんです。」
「毎日後ろをちょこまかと着いてきて可愛いものだった。」
「振り回されてただけです。」
うわぁ・・・家康、嫌そう。
家康のぶすっとむくれた顔が目に入る。
夕霧は家康の被せるような受け答えに肝を冷やしていた。
毒づいてる・・・信長様怒ってないのかな?
ちらりと信長に目を向ける。
あれ・・・笑ってる?
怒っているどころか笑みを浮かべている。
その表情は可愛い弟を見守る兄の様。
この表情どっかで見たな・・・うーん・・・