第2章 動き出した歯車
私が更木さんに素っ気なく答え、勇音の方へ歩き出すと突然腕を掴まれた。
咄嗟に振り解こうとするが、そのまま引き寄せられ目の前に更木さんの顔が突き出される。
「……なんですか、離してください。
私、今時間が無いんですが」
「…………った」
「は??」
「気に入ったっつってんだ。
お前、俺と戦え!!!」
豪快に笑い、そう言った更木さんに私は目が点になる。
「だから私、このあと十三隊へ挨拶に行かないと……」
「知るか!!! 俺と戦えっつってんだよ!!!」
『戦え』と言っているはずなのに私の耳には『殺し合え』と聞こえる。
狂気じみた瞳が私の顔をのぞき込む。
あぁ、この瞳に覚えがある。
昔、流魂街にいた頃。私が斬った男達が死のまぎわに浮かべていた、あの瞳だ。
その視線にゾクリと私の中のなにかが反応した。
あぁ、コロシタイ。
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って……
一思いに
一太刀で
命を奪う
それがあの場で私ができる唯一の優しさ
殺したい、殺し合いたい、優しくしたい
……けど、ここはあの場所じゃない。
視界の隅で勇音が今にも泣き出しそうな顔をしてこちらを見ていた。
そんな顔しないで……
違う、違うの……
もう、私はあの頃の私じゃないの…。
息を付き私は「わかりました」と彼にかえした。
私の返答に無邪気に凶暴な笑を浮かべる更木さん。
貴方ともいつか……
『殺(愛)し合えたらいいな』
「よっ!!!!」
握られていた腕を引き寄せ思い切り投げた。
崩れた壁の穴から廊下へと投げ出された更木さんはすごい音を立てて背中を打ち付けた。
様子を見ていた隊士達が息を飲む。
2mはある大男を華奢な彼女はとても綺麗に一本背負投を決めたのだ。
「ふぅ。
はい、私の勝ち!!
勇音、時間ないから浮竹隊長のこと口頭で教えて。覚える!!」
廊下の天井を見上げ呆然としている更木さん、小さな拍手を送る隊士達を気にすることなく彼女は勇音へ近づいてそう急かした。