第1章 伝説の始まり
無事に断界を抜け、初めて現世を目にしたはずの私の感想は、
「懐かしい……」だった。
「お、嬢ちゃんは現世出身か?」
私の呟きを拾った海燕さんはそう私に問いかける。
「……分かりません。気がついたら流魂街に1人で居たので。」
「ほぉ……けど、1人って事は親はいないってことだろ?なら、現世から来た可能性がたかいんじゃないか?」
「そうですね……。」
無表情に答えた私に海燕さんは笑いながら頭をガシガシと触りながら「浸るな浸るな!!」と返してくれた。
「そこ、無駄口を叩くな!!
では、これより虚探索を開始する。見つけ次第対処、及び赤火砲を空に打ち上げ通達すること!!
では、解散!!」
碓氷班長の号令に私以外の班員は動き出した。
元々計画を立てていたのか、連携の取れた動き出しだ。
だけど……
「詰が甘いなぁ、これじゃぁ1人に対して複数の虚が出た時は対処のしようがない。せめて2人で動かないと……」
「いやはや手厳しいねぇ。で、君は行かないのかい?」
猫かぶりをやめて'あの人たち'の前だけの私に戻ると、死神さんが私の隣に立っていた。
「その前に貴方とお話ししたくって。
…………卯ノ花さんはお元気ですか? 」
私の質問に目を見開いた死神さんは、口元に笑みを浮かべて応えてくれた。
「あぁ、元気だよ。学院での君の様子を授業の手伝いに駆り出された隊士に聞く度に、安心した顔をしていらっしゃる。」
「そうですか……。でも、十五席の青菜さんが来たことは卯ノ花さんの指示ですか?」
元気ならそれでいい。まだあの人に恩を返せていないから、返し切るまで元気にしていてもらわなければならない。
「いや、これは完全に偶然。四番隊は他より隊員が多いからこう言う仕事も回されるんだよ。」
「それにしてもよく俺の顔憶えてたな」なんて嬉しそうに笑う隊士青菜さんに「みなさんのこと忘れるはずないじゃないですか」なんて返して私は伸びをした
「んーーーっと。……それじゃそろそろ行きますね。」
「あぁ、危なそうになったら助けるけど、減点になるから注意しろよー。」
そんなことになると思いますか?なんて言って彼女は屋上から消えていった。
「ったく、ウチの秘蔵っ子はいい女になったもんだねぇ。」
彼はそう言って微笑みと共に風になった仄を見送った。