
第3章 演練

間にあるのは信頼のみ。
これもまた、一つの形。
(けれど………)
信頼関係ならば。
「私達も負けてはいないよ。蜻蛉切!三人くらい倒してやりなさい!!」
私は彼と一瞬目を合わせる。
刀剣の力を最終的に決めるのは、審神者の力らしい。
審神者の力は、当初全員に等しく注がれているが、それが偏る時が来る。
何時だと思う?
………それは、刀剣への思いが偏った時だ。
愛の大きさ、とも言う。
思いが彼等へと送られる力になる。
だから、審神者は皆を愛さなければならない。
恋に落ちると、それが一つだけに偏って他が疎かになる。
それが、恋に落ちてはならないと言われる理由の一因だ。
しかし、これは審神者には説明されていない。未だにこの理論の確たる証拠が得られていないからだ。
私はほぼ、この理論は正しいと確信している。
だから、そんな私には彼等を強くする秘訣がある。
「信じているよ。勝って、戻っておいで」
信じるということ、それだ。
私の小さな小さな呟き。
だが、それはきちんと彼等の耳に入っているようだ。
「勿論です。直ぐに、貴方へと勝ちを持って帰ります」
その言葉の優しいことといったら、もう。
私は、幸せ者だ。
いきなり動きが良くなった蜻蛉切に、味方の刀剣達が蹴散らされる。
そのまま、戦況はグッと傾いた。
「なっ………」
俺は、一瞬相手の娘が不正でもしているんじゃないかと疑った。
しかし、娘の目を見たとき、それこそが愚かな考えであることを悟らざるを得なかった。
(眼が………)
光を放っている。
自分だって霊力者の端くれ。それが、圧倒的な霊力の洩れである事くらい理解できた。
自ら刀剣に霊力を与えている。
無意識でないその技術は、本物の霊力者と呼ぶに相応しい。
「……………本物」
そういう者がいると、聞いたことはあった。だが、それがいざ目の前にいると思うと恐怖すら込み上げてくる。
そうして、あっという間に決着はついた。
勝敗は言うまでもなく、自分達の負け。
心が既に負けていたのだ。勝てるわけがない。
顔を手で覆った。
「あぁ………」
なんという、なんという日なのか。
決着はついた。
私は、息をはいて少ししゃがむ。
「あるじさまー!!」
ぎゅっと抱きついてくる今剣を抱き締め返して、私は立ち竦んでいる五虎退を手まねいた。
「おいで」
すると控え目に寄ってくる五虎退が、愛しくて彼も抱き締める。
