第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>
「ちょっと待ってろ…さとみ」
「え……?」
予期せぬ囁きに目を開けた。見上げた秀吉さんの目線は廊下の先。少し不愉快そうに眉を潜めてる。
同じように声を落とす私に微笑みかけた秀吉さんは、私を廊下の奥へと誘導すると、仁王立ち。怖い顔して声を上げた。
「おい、出てこい。お前ら」
「おっと、もうばれたか」
「まあ見つからない方が不思議だよな」
秀吉さんの問いに悪びれることなく答えるこの声…光秀さんと政宗かな。でも、こっちへ来る足音は、二人分じゃなさそう。
廊下の奥から様子だけ伺う私には、仁王立ちする秀吉さんの鬼のような横顔しか見えないんだけど…その顔がものすごく驚いてる。その理由は、すぐに分かった。
「御館様まで、何故このような場所におられるのですか!」
「貴様がいつまでも煮えきらずにいたからだ、猿。漸く覚悟を決めた貴様の姿を見てやろうと思ったまでよ」
「それはありがとうございます。ですがお見せするようなものではございませんので」
信長様までいるの?
私がああして広間から飛び出しちゃったから、心配して下さったのかな。
「光秀や政宗だけならともかく、三成と家康まで…お前ら、面白がってるな?どこから見てた」
え!?それはつまり、全員いるってことだよね?抱き合ってるところとか、見られたの?もし、秀吉さんが気が付かなかったら…その先も!?
羞恥に混乱しそうになっている私を、聞きなれたため息が現実へと引き戻す。
「あんた達を見つけたばかりですよ。ちなみに俺は政宗さんに無理矢理連れてこられただけなので、一切興味ありません。いちゃいちゃするなら、どうぞ二人きりでご勝手に」
「家康様、いちゃいちゃとは、具体的にどのような事をするのでしょうか」
「…お前の好きな書庫にでも行って、探してみれば」
「はい、そうします。ありがとうございます、家康様」
相変わらずの二人の会話に、光秀さんが笑う声。
「三成、秀吉に教えてもらうといい。ちょうど今まさにいちゃいちゃしようとしていたようだからな」
「本当ですか、秀吉様」
「三成、こいつの言葉をまともに受け取るんじゃない。光秀、いい加減にしねえと、お前のその口二度と開かねえようにしてやるからな」