第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>
「よしよし」
全てを分かっているような、秀吉さんの優しい声が降ってくる。
髪を撫でる大きな手。
背中を支える温かさ。
言葉で並べることなんて出来ない。
全部、全部。
「す、き…」
もはや声にもなっていない、嗚咽混じりの呟き。息も出来ないほど、力強く抱きしめられた腕の中。
秀吉さんのせいだよ。
もはや止めようもない涙に溺れながら、私はこっそり笑った。幸せな涙になら、少しくらい困らせてもいいよね。
「落ち着いたか?」
「うん…」
結局本格的に泣き出しちゃった私を、秀吉さんはずっと抱きしめててくれた。
時折髪や背中をぽんぽんと優しくあやすように叩いてくれて、それだけで生きてて良かったって思えるくらい幸せ。
ゆっくりと離れた秀吉さんに小さな声でお礼を言った私の目元を、指が返事の代わりに優しく拭っていく。さっきまで抱き合ってたっていうのに、何故かその指の感触に鼓動が跳ねた。
秀吉さんの指が一本触れただけで、こんなにドキドキしてたんじゃ、この先どうなっちゃうんだろう。慣れることなんて絶対にない気がする。
「あ、ありがと…」
「っ…ああ」
最大限の勇気を振り絞って笑いかけると、秀吉さんははっとしたように私から手を離して、そっぽを向いてしまった。どうしたんだろう。
「秀吉さん?」
「見るな」
そう私を制しながら、顔を腕で覆ってしまう秀吉さんの様子がどうしても気になっちゃう。
「どうしたの…?」
「…っ」
しつこく尋ねたら、怒ったように眉をしかめた秀吉さんが私を睨んだ。その顔が赤く染まっていて、どきっとする。
「好きだった女手に入れて嬉しいんだ。悪いか」
「わ、悪くない…です」
うわ…どうしよう。
嬉しい、だって。
火照る頬に手をあてる。
今私、とんでもない顔になってそう。
俯いた私の視界の端で、秀吉さんがこっちを向いたのが分かった。そのままゆっくりと私の方へと近づいてきて、その手が熱いままの頬へ触れる。やんわりと上を向かされて、目があった。
「さとみ…」
秀吉さんの顔が迫ってきて、私はギュっと瞳を閉じた。
心臓が飛び出てきそう。
バクバク、なんてもんじゃ形容できないほどの音で鳴り響いてる。