第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>
・・・苦しい。
無意識に息を殺してることに気が付いた。頭のてっぺんから足の先まで・・・本当に燃えてるんじゃないかってくらい、熱くて。
心臓は今にも口から飛び出して行きそうな勢いで暴れているし、その鼓動が耳鳴りのように頭の中を響いていて、他の音なんて聞こえない。
「……」
秀吉さんは、なんで私を抱きしめているの?
何も言ってくれないから、分からない。私の体が冷えているから、ただ単に温めようとしてくれているだけかしら。
まるで時が止まってしまったみたいに動けないでいる私の髪を、秀吉さんの手が微かに動いて撫でていく。
背中に回ってる腕にぎゅっと力が籠って…秀吉さんが呟いた。
「全部、聞いた。ごめんな…さとみ」
…ああ。
終わってしまった。
足元から崩れ落ちていきそうな錯覚に陥る程の喪失感が、私の心を支配する。
枯れたはずの目元にこみ上げてくる熱い物を無理矢理押し殺して、私は秀吉さんに感づかれないように歯を食いしばった。
さっき、決めたじゃない。
笑っていなくちゃ、だめ。
とん、と秀吉さんの胸を優しく押し返し、温かな腕の中から抜け出すと、私は秀吉さんの顔を見上げて微笑んだ。
「さとみ?」
「私、あなたが好きでした」
するりと言葉が流れ出た。
不思議。
こんな言葉が、今になって言えるなんて。
目を見開く秀吉さんの顔を、妙にすっきりとした気持ちで見つめ返す。届かない事は、分かっているもの。
「困らせて、ごめんなさい。でも、伝えられて良かった。忘れてくれて、いいから」
「…分かった」
ぐさりと棘が刺さるように、心が痛んだ。これで、いいの。分かりきってたことじゃない?
「じゃあ、次は俺の話も聞いてくれるか」
「…話」
そっか、そんな事言ってたっけ。
こくんと頷いた私の手を取り、秀吉さんが優しく私を引き寄せる。少し屈んだその顔が間近に迫って、大好きな笑顔に変わる。
「さとみ、好きだ」
「……っ」
息を飲んだ私の目の前で、秀吉さんの顔が今更のようにほのかな朱に染まってく。
言葉が見つからない。
ただその手を、握り返した。