第33章 キューピッドは語る Side:You <豊臣秀吉>
「う…」
光秀さんの言葉を聞いた全員の視線が私へ向いた。身体中がかあっと発熱し始めて、嫌な汗が背中をじっとりと濡らしていく。
「光秀、やめろ」
「秀吉さん…」
「さとみ、無理にそういうことをこの場で言わなくていい。お前に想い人がいたとしても、その想いをどうするかはお前だけが決めることだ」
肩を竦める光秀さんには厳しい瞳を向けた後で、秀吉さんは私にそう言って笑った。
この笑顔が、私は大好き。ドジした後も、仕事をやりきった後も。秀吉さんは何かある度にこうして私に笑いかけてくれて、落ち込んでいたり疲れていたりする心を柔らかく包み込んでくれる。
「はあ…秀吉さん、あんたに教えておきますけど」
「なんだ?」
家康がぼそりと呟いた言葉が、不穏な気配をまとってる。ちょっと…何言うつもりなの。
「さっき俺とさとみが揉めてたのは、さとみがあんたの隣に座りた」
「きゃああああ家康やめてー!!」
衝動的に上げた大声が広間に響き渡った。慌てて立ち上がると、まだ先を続けようとしている家康の口を両手で塞ぐ。
不満そうな目に睨まれて、手首を掴まれたけど、私も必死。もう言わないって約束してもらえないなら、この手は死んでも離さないんだから。
必死に首を横にブンブン振っていたら、観念した家康がコクンと小さく頷いた。
「苦しい…」
「ご、ごめん」
ううう…どうしよう。家康の言葉を遮ったまではいいけど、また変な雰囲気になっちゃった。秀吉さんは訳が分からないって顔できょとんとしてるし…。
「どうでも良いけど…いい加減お腹空いたから、秀吉さんとくっつくなら早くしてよね」
「ちょ…ッ」
しっかりと口を自分の手で庇いながら、家康がしれっとした顔で言い放った。どさくさに紛れてこいつ…!
光秀さんや政宗がこれ以上ない程にやついてるし、さっきから黙って様子を見てる信長様もどこか楽しそう。
「俺、と…?」
零れた言葉に誘われて顔を上げれば、戸惑った様子の秀吉さんと目が合ってしまった。途端に私の顔に集まり出す、沸騰しそうな程熱い熱。
ああ、もうダメ。
秀吉さんから紡がれる否定の言葉も、困った顔も見たくない。その場の雰囲気にも耐え切れなくなって、私は一人逃げ出した。