第33章 キューピッドは語る Side:You <豊臣秀吉>
秀吉さんのただ事じゃない迫力に押されて、広間全体がしんと静まり返ってる。腕が解放されたのと同時に座布団に座り込んだ私も、息が詰まるような緊張に動けずにいた。
・・・分からない、どうして秀吉さんはこんなに怒っているの?
「お前にはずっと言いたかったことがある。皆もいるし、ちょうどいい機会だ。今ここで言わせてもらうぞ」
「何ですか」
刺すような秀吉さんの視線を軽く受け止めて、家康は物怖じせずにそう問い返した。座布団の上で小さくなっている私も、秀吉さんの怒っている理由が知りたくて、顔を上げる。
「お前がそういう性格なのは分かる。だが、好きな女くらい、ちゃんと甘やかしてやれ。好きならちゃんと捕まえとかねえと、横から攫われちまうぞ」
「……」
え…?
えええーッ!!
たぶん、私と家康は似たような表情をしていたと思う。雷に打たれたような衝撃に、ただただ絶句。家康ですら、すぐには返す言葉を思いつかないみたい。
「…くくくっ…」
広間の雰囲気が、光秀さんの小さな笑い声で弛緩した。我に返ったような顔をした秀吉さんは皆を見回していて、家康は心底呆れたように嘆息。
「秀吉さん…後半の台詞、そのままお返ししますよ。それと、あんたにもね。さとみ」
「う…っ」
突然矛先が私に向けられて、ぎくりと反応しちゃった。さっきまでの張り詰めた空気に緊張して血の気が引いていたはずの顔には、だんだんと熱が集まって来てる。
ああもう…秀吉さんもこっち見てる。今私、どんな顔してるんだろう。
「どういう…意味だ。お前、さとみと恋仲なんじゃ…」
最初の勢いをすっかり失くしてしまった秀吉さんは、どこか不安げに家康を見つめた。ちらりと私を見下ろした家康は、秀吉さんに向かってきっぱりと言い切る。
「こんな女、たとえ泣いて頼まれたって願い下げです」
ひ、ひどい。むしろそれはこっちの台詞なんだけど。秀吉さんがいなかったら殴ってやりたいよ。
家康の言葉と目に、真実を読み取ったのだろう。自分がした盛大な勘違いに気が付いて、秀吉さんの顔が焦りと羞恥で赤く染まっていく。