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【イケメン戦国】紫陽花物語

第33章 キューピッドは語る Side:You <豊臣秀吉>





「・・・えーと」



文机に向かって、墨をすって、紙を広げて、筆を構えて。なんて書けば・・・そうだ、まずは宛名だよね。



「秀吉さんへ、と」



ああ、少し震えちゃった・・・まあいいか、練習だし。恋文の書き出しって、どうしたらいいんだろう。最初からズバンと直球?それとも、当たり障りのない話題から?



「お元気ですか」



いやいや、いつも会ってるし。たまに会う親戚に書くみたい。やり直し。

ぐしゃぐしゃと紙を握りつぶして、とりあえずその辺に放る。新しい紙を広げて、「秀吉さんへ」。

よし、次は直球に行ってみよう。



「好きです・・・って無理無理無理っ」



思わず体ごと文机に突っ込んで、紙を破いちゃった。自分で書いた文字に照れてるようじゃ、恋文もまだ無理かしら・・・。



「はあ・・・」



大人しく諦められるなら、どんなに楽なのかな。自分のこの部屋で、そう思っては悩んできた。いっそこの想いを封印してしまおうって、何度も思った。

でもその決意は、秀吉さんが私の顔を見て笑ってくれる度に、面白いほど脆く崩れていくの。名前を呼んでくれるその声が、もっと聴きたくて。「だーめーだ」って、無茶する私を叱る怒った顔が、見たくて。

どんな顔でもいいから、私を見ていてほしいって、我が儘な独占欲が心を支配して、どうしようもなくなる。諦めると決めた時よりもより深く濃く、秀吉さんを求めて苦しい。



「・・・」



破った紙を拾い集めて、文字の形を成さなくなってしまった「好きです」を眺めた。たった四文字。この四つの文字の羅列が、私の心を簡単にかき乱してく。

泣きたいほど苦しくて、心が切なく痛むのに、それはどこか甘くって、とても温かい。私のこの想いが報われることはたぶん、ないだろう。



「秀吉さん…」



ぐしゃぐしゃの「好きです」の前に、大事な名前を付け足してみる。この言葉が言える日、きっと私の恋は終わる。

それでもいい。

叶えるための恋じゃなくても、この想いをいつかあなたに届けたい。



「振られたら、家康に何かご馳走してもらお・・・」



勝手にそう決めたら、少しだけ笑うことが出来た。

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