第30章 キューピッドは語る Side:I <豊臣秀吉>
「読んでくれた!?どうだった!?」
部屋に戻った俺の顔を見たさとみの、これが第一声。文を返せば、一瞬だけその目は手元に落ちるけれど。何かを期待する眼差しが、すぐにまた俺を見る。
「…いいんじゃないの、それで」
「ほんと!?良かったー」
さとみは、まるで宝物でも抱えるみたいに文を両手で胸元にあてて、あからさまにほっとしてる。
まあ内容なんて、悪口でもない限りなんでもいいに決まってる。秀吉さんが、さとみからの文を喜ばないわけがないんだから。
「家康も一緒にいてくれるんだよね!?」
「出来れば遠慮したいけどね」
にこにこ嬉しそうな秀吉さんと、その顔を見れずにどぎまぎしてるさとみ。その横に、俺がいる光景が目に浮かぶ。うわ…最悪だな。
「じゃあ日取りが決まったら伝えに来るよ。家康は呼ばれてないのに来た事にしよう!」
「まあ…いいけど」
そうはっきり言われると、すごく嫌な役回りだな。秀吉さんとさとみがくっつけば、全て終わる。仕事の邪魔をされることも無くなる事を思えば、我慢できる…はず。
「ところで、問題が一つあるの」
「?」
「これ…どうやって渡そう…!!」
…言うと思った。さとみは思い切り困った顔をして、握った手に力を込めている。この子、今だったら秀吉さんにこじつければ、何でも言う事聞くんじゃないの。
「秀吉さんの御殿の女中にでも預けたら」
「そ、そうだね!ここから近いから…い、家康…」
「はいはい、一緒に行けばいいんでしょ…」
「ありがとう!」
俺が頷くまで帰りそうにないからな、この子。それにどのみち、既に陽の落ちた暗い道を一人で歩かせるわけにもいかないし。
「さっさと行くよ」
「うん…!」
気合いを入れ直すさとみと共に部屋を出て、秀吉さんの御殿へと足を向けた。空には既に星が瞬いてる。
今日、御殿から何度外へ出てるんだろう。
疲れた…。