第27章 それゆけ、謙信様!*愛惜編*
「信長様が、桜の外出を許可した日…あの子が謙信に追いかけられている所をうちの部下が見ているんです」
「そんな大事な事、何で黙ってた」
「大方桜と約束でもしたんだろ。なんだかんだ言って、家康も桜には甘いからな」
不愉快そうな秀吉と、ニヤニヤと笑う政宗。家康は言い返す事が出来ずに、居心地の悪そうな顔でそっぽを向いている。
「…どうされます、御館様」
指示を仰ぐように、光秀が信長に向き直った。腕を組み、じっと黙っていた信長が、口の端をつり上げて笑う。
「あれが何のつもりで謙信を訪ねたかは知らんが…根城を押さえられたのは運が良い。引き続き見張れ」
「御意」
「御館様」
恭しく頷く光秀の横で、秀吉が声を上げる。続きを促す信長の視線を受けると、身を乗り出した。
「早急に、力づくでも追い出すべきでは?桜が動けない今が好機です」
「町中を戦場にするわけにはいかん…が、奴等が安土を離れる気配がなければ、実力行使に移る。そのつもりでいろ」
「はっ」
全員が信長の言葉に頷くと、遠慮がちに外から声がかかった。家康が立ち上がって襖を開ける。
「桜、起きた?」
「はい、しかしまだ熱が高いようで…」
「今行く」
退出の許可を得るために振り向いた家康に、信長がさっさと行けと手を振った。一礼した家康が姿を消すと、三成が心配そうに肩を落とす。
「桜様、大丈夫でしょうか…」
「三成、心配するな。すぐに良くなる」
気遣わしげに三成に笑いかける秀吉の顔にも、心配そうな色が見え隠れしている。諸々の問題を桜に問いただしたい気持ちはもちろんあるけれど、今は身体が第一。
「各々、有事に備えて準備しろ。以上だ」
「はっ」
解散となった広間から、ぞろぞろと武将達が出て行く。ある者は台所へ。ある者は見舞いに。ある者は部下の元へ。