第26章 それゆけ、謙信様!*氷解編*
それから、丸二日。
桜は城から出してもらえずに、悶々として過ごした。外へ行く用事も特に見あたらず、家康に黙ってもらっている負い目から、大人しくしていたけれど。
今日がその、三日目。
も、もう限界。
桜は自室で身支度を整えると、静かに襖を開けた。自発的に部屋にこもっているのならいざ知らず、出るなと言われて二日も経てば、さすがに息苦しくてたまらない。
今日は軍議があるって三成君が言ってたから、人が少ないはず。
昼前のこの時間であれば、軍議があっていないとしても武将達は仕事に追われて桜に構う暇などないに違いない。そう目論んだ桜の読みは当たり、昨日まで何かにつけては桜を見張るかのごとく現れていた武将達の姿は見えない。
…よし、今のうち。
城の女中達の姿にすら気をつけながら、桜は極めて静かに城の中を出口に向かう。草履を地面におろしてかがんだ所で。
「桜!」
こ、この声は。
びくっと体が反応して、罪悪感から振り向くことが出来ない。足早な音が背後まで迫って、ぐいと顔をのぞき込まれた。
「家康、軍議なんじゃ…」
「それはさっき終わった。そんなことより、あんたまさか、出かけるつもりじゃないよね?」
「そ、そんなわけ…」
「ふうん?草履、あるけど」
「お、落ちてた!」
「ごまかすなら、もう少しマシなこと言いなよ…」
呆れたように言うと、家康はひょいと桜の草履を拾い上げた。
「あっ」
「これは、俺が預かっとく。あんたは部屋で大人しくしてること」
「はあい…」
肩を落とし、家康の姿が見えなくなるのを見送った桜。しかし部屋へ戻りはしない。喜色満面で懐を探る。
こんなこともあろうかと…。
もう一足。新たな草履を今度こそ履いて、桜は城から堂々と抜け出した。軽い足取りで城門を出るその姿が、天守の最上階から丸見えであることには気がつかずに。