第26章 それゆけ、謙信様!*氷解編*
同日夕刻。某庵。
四人全員が庵へと戻って来て、簡単な経緯を佐助から聞いた信玄は、隣に涼しい顔で腰を下ろしている謙信を見た。
「なーにやってんだ。信長共が警戒して、姫に会えなくなったらどうする」
「元はと言えば、あんたがあいつを呼び出したからでしょーが」
「まあまあ、幸村。恐らく、そうなると思います。あれだけ目立っていれば、きっと見られていたでしょうから」
「俺よりも、佐助。お前の方が余程派手に動き回っていた気がするが」
どこまでも冷静な忍は、謙信の言葉にコクリと頷く。
「はい、怪盗も楽しそうだなと思ったので」
「かいとー?」
聞き返してくる幸村の顔を見て、佐助ははっとしたように目を見開いた。そうだ、忘れてた、と小さく独り言を呟いてから、幸村に一歩近づいて。
「幸村」
「あ?」
急に距離を詰めて来た佐助を警戒するように睨む幸村の額を人差し指で小突いて、一言。
「めっ」
「っ…何だお前!?気持ちわりー!」
ずざ、と後ずさる幸村に、指を立てたままの佐助は真顔のままだ。
「桜さんに約束したから」
「何だ、幸も姫に何かしたのか?」
「…別に、関係ないでしょう」
ぶすっとした顔で、幸村が信玄に言葉を返す。その態度に肩を竦める信玄の横で、謙信が口を開いた。
「俺が見た時には、幸村はあの女と」
「わあああッ」
「幸、落ち着きなさい。そんなに赤くなって…さては、俺達に言えないような事なのかな?」
「サイテー」
「あ、あんたら…っ」
ニヤニヤと笑う信玄の横で、佐助は無表情のまま裏声で茶化す。これ以上ない程赤くなった幸村は、怒りと恥ずかしさにプルプルと拳を震わせている。
「フン…くだらんな」
「…謙信様、どちらへ?」
「今宵の酒を調達しに行く」
一人興味の無さそうに腰を上げた謙信は、庵の戸口に立った。質問した佐助にぼそりと答えると、さっさと姿を消してしまう。
「俺も出かけてくるよ、どうやら、明日からはあまり出歩けないようだからな」
「ていうか、あんたらいつまでいるつもりですか」
「俺はいつ戻ってもいいんだが…謙信が何も言わないからな」
じゃ、と手を上げた信玄も、宵闇迫る町へと一人出かけて行った。