第26章 それゆけ、謙信様!*氷解編*
「あれ、絶対怒ってる…」
佐助と別れ城へ戻った桜の視線の先には、城門から今にも飛び出して行きそうな秀吉と、心配そうに眉を下げる三成の姿。
「おや、桜姫様。お帰りなさいませ」
「ただいま帰りました…」
様子を伺っていた桜の傍を、たまたま城へ入っていく家来の一人が通りかかった。響いたその声に反応して、秀吉が駆けてくる。
「桜ー!!」
「うわっ」
あまりの勢いに、城門に体を隠す。般若のような形相の秀吉が、そんな桜を見下ろして。
「こんな時間になるまで、どこ行ってた!すぐに帰ってくるって約束だったろう」
「で、でもまだ昼…」
「口答えするんじゃない」
「…はい、ごめんなさい」
怒った秀吉に謝るしかない桜。小さくなっていると、後ろから追いついて来た三成が笑いかけてくる。
「桜様、お帰りなさいませ。何もなくて何よりでした」
「三成君…ただいま」
「本当に何もなかったんだろうな?」
「何も、ないよ」
秀吉のじとっとした視線を浴びて、桜の背中を汗がつたう。自然に笑えているといいけれど。
「やはり降りてきて正解だったな」
「御館様!?」
ひょいと二人を覗きこんでくる信長の目は面白そうな光に溢れ、その後ろから意地悪に笑う光秀がついてくる。さらに城への入口付近に佇んでいるのは、政宗と家康だ。
皆いるし…。
「そんなに煩く言っていると、いつか桜に嫌われるぞ」
「嫌われようが疎まれようが、桜のためなら俺は鬼になってやる」
光秀のからかうような言葉にも、秀吉は真面目に拳を握りしめて決意表明。
「さすがです、秀吉様」
「そこまで言うとは思わなかったな」
感動した面持ちの三成の横で、光秀がぱちぱちぱち、と手を叩く。
「おい、やめろ。桜、次からはちゃんと約束守れよ?」
「うん!」
「よし」
にこ、と笑った秀吉が、桜の頭を一撫でして。武将達に囲まれ城へ入りながら、桜は心底ほっと胸をなでおろしたのだった。