第25章 それゆけ、謙信様!*猛進編*
佐助は桜を傍の脇道へと連れていくと、落ち着いて聞いて、と前置きする。
「技能大会の時に、謙信様が君に用があるって言ってたの、覚えてる?」
「うん。覚えてる」
「謙信様の君への用事っていうのは、簡単に言えば会いたいってことなんだ」
「…そうなの?」
会いたいというだけで、敵将に囲まれた女の元へと駆けてくるのか。思わず佐助の顔をまじまじと見返す桜に、佐助は頷く。
「あくまでも、簡単に言えば、だけど」
それで、と続く佐助の話。
曰く。
桜が城から出てくるとは思っていなかったから、謙信を多少放っておいても大丈夫だと思った。
しかし、信玄が桜を文で呼び出している事を知り、幸村がうっかり謙信にも話してしまった。
信玄に会っているはずの桜に会いに行くと言って、謙信が外出してしまったのだが、あまり機嫌が良くない。
「桜さんは、もしかして城へ戻る所だった?」
「うん、そうだよ」
「それなら、引き止めない方が良かったな。謙信様が君に何かするとは思わないけど、君は謙信様を怖がっているみたいだったし、俺にもあの人の行動は予測出来ないところがあるから」
「ううん、伝えに来てくれて、ありがとう」
佐助は信玄と同じように、送ってあげられたらいいんだけど、と残念そうに言う。せめてここで見送っているから、と表情を緩ませる佐助に手を振って、桜は城への道を急ぐ。
謙信様に会って、お話したい気もするんだけどな。
戦での初対面がそもそも良くなかった。佐助や幸村の謙信への態度を見ていると、自分が必要以上に怖がりすぎているだけのような気がしてくる。
市の端まで来て、往来もまばらになって来た。あと一本通りを横切れば、すぐに城門が見えてくる。
「あ…っ」
何気なく、横断する通りの左右を見回した桜は、衝動的に歩みを止めてしまった。それを見咎め桜を見つけたのは、誰あろう謙信その人である。
二人の間には、平屋二軒分ほどの距離が開いていて、謙信はその距離を、桜の方へ静かに歩いてくる。