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【イケメン戦国】紫陽花物語

第25章 それゆけ、謙信様!*猛進編*





「信玄様も、笑っていてくださいね」

「…俺が?」



呆気に取られて桜を見れば、はい、と優しい笑顔が返ってくる。



「この間お会いした時もそうだったんですが…信玄様はたまに、悲しそうなお顔をなさっているので…」

「そうかな」



内心でどきりとする。確かにたまに色々な事を考えてしまうけれど、それを見抜かれる程顔に出ていただろうか。



「私がそう思うだけかもしれません。でも、甘味を食べている時の信玄様の笑顔は、とても素敵でしたから」

「…ありがとう」



そうやって、俺の事を想って笑っている君の方がよほど素敵だ、なんて。

いつもなら、何も考えずとも口をついて出るそんな言葉も、喉につかえたように引っかかっている。深い事情など知らなくても、知り合った男の笑顔を祈ってくれる優しい瞳。



「…姫。君になら、任せたくなるな」

「何をですか?」

「俺の隣を」

「…っ」



不意打ちの信玄の言葉にはどうしても慣れないのか。赤く染まる桜の顔を愛しく思いながら、信玄の頭には違う映像が浮かぶ。

主君に生意気な口を利きながら、誰よりも深くその体を思い、志を継いでくれる忠臣と、それを見守り、良き理解者である忍。

信玄が、心底守りたいと願う彼らの横に、桜のような女が連れ添い、幸せに笑っていてくれたら。



「君は本当にいい子だな、姫。安土なんかに置いておくのはもったいない」

「そんなことは…」

「どうだ、この際俺と一緒に春日山に行かないか」

「え!?」



桜の瞳が驚きに見開かれ、瞬く。しかしその眼に揺らぎはなく、安土を離れる気などない事を雄弁に語っている。



「春日山は楽しいぞ、姫。考えておいてくれ」

「は、はあ…」


…さて、そろそろ。


「ところで、君は城をどう言って出てきた?」

「あ…買い物だと言って」



桜ははっと思い出す。すぐに帰ってくると言った手前、あまり長居しては秀吉あたりが探しに出て来かねない。



「俺達をまだ警戒してるだろうから、今日はもう帰りなさい」



にこりと笑った信玄が、先に立ち上がり桜に手を伸ばした。躊躇いながらもその手を取って。二人はのんびりと通りを進む。
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