第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*
桜不在の会議の場で仕事の割り振りをしたとき、時間のかかるこの作業だけはどうしても手が足りずに、なかなか担当が決まらなかったのだ。
「手が足りないのでは仕方あるまい。桜にやらせる」
信長が上座から言い放った時、他の武将達から一斉に抗議が上がった。
「桜一人にやらせるには、店の数が多すぎるんじゃないですか」
「家康の言う通りだ。仕方ないから、俺が一緒に回ってやる」
「政宗さん、あんたはどうせ桜と市に行きたいだけなんでしょうから、黙っててください」
「我々で店を分けましょう、そうすれば桜様にご負担をおかけしなくて済みます」
「どう分けるんだ、三成」
「それを話し合う時間ももったいないんだけど」
家康、政宗、三成の三人がああでもないこうでもないと騒いでいる脇で、光秀は一人静かな秀吉を伺い見る。
「どうした、秀吉。こういう時いつも一番に声を上げるだろう」
「そうしたいのは山々だが、今回は本当に手が足りないからな…よし」
決然とした表情で、秀吉が名簿を作ることを信長に願い出た。店への支払いや、勘定に関する仕事は秀吉の担当だったから、桜に任せる仕事は間接的に秀吉の仕事である。
そう信長を説得し、秀吉は自分の膨大な仕事の合間に市へ出向き場所を確認し。桜のために名簿を作成したのだ。
「そのままその仕事終わらせられそうですけど」
呆れと感心が混ざった顔で、家康がそう秀吉に告げているのを思い出し、光秀はまた笑う。
「まあとにかく、無理はするな」
「はい」
微笑む桜の顔に、光秀の手が伸びた。目元にちょん、と指が触れる。
「疲れた顔をしているぞ」
「そうですか?」
鏡が無いから顔を確認できないが、そう指摘されて初めて、今日の疲れを実感する。
「確かに、今日は少し疲れたかもしれません」
「よく、休め」
優しい瞳が桜を案じる。結局、過保護なのは皆一緒らしい。