第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
桜は信長の隣へと移動して、腰を下ろす。
「酌をしろ」
「はい」
信長の杯に静かに酒を注ぐ。一息にくい、と飲み干すと、信長はその杯を桜へ渡した。
「貴様もたまには飲め」
「じゃあ、頂きます」
特に酒に強くはない桜は、普段あまり飲むことはない。けれど、今日くらいは楽しんでもいいかもしれない。
杯を受け取ると、信長が少なめに注いでくれる。甘い香りが漂うそれは、まろやかで飲みやすい。良い酒だ。
「美味しいです」
「そうか」
「でも、信長様が点てて下さったお茶が一番美味しかったです」
飲み切って、口を付けた所を拭ってから信長に杯を返す。桜の言葉に、桜からの酌を受けながら信長は口端を釣り上げた。
「貴様が喜ぶなら、茶などいくらでも飲ませてやる」
「ありがとうございます」
お酒が入ったからか、信長の言葉のせいか。桜の顔に熱が集まって、熱い。
信長が、再び桜に杯を渡してきて、そのペースの速さに内心焦りを覚える。それでも杯を受け取ろうとすると、上からひょいと横取りされた。
「何をしている、秀吉」
「私が代わりに頂きます」
桜の背中をぽんと叩いて、横へ腰を下ろす秀吉を、信長が顔をしかめて睨む。
「お前に飲ませるのはもう懲りた。良いから、桜を連れて下がれ」
「…は」
少し残念そうに杯を信長に返して、秀吉は桜を促し席へと戻った。
信長は光秀を呼んで、酒の相手をさせている。
「ありがと、秀吉さん」
「桜は、無理に飲まなくていいんだぞ」
「信長様に合わせて飲んでたら、あんたなんかすぐ酔い潰れるよ」
「うん、そうだよね…」
家康が、お茶の湯呑を桜に差し出す。それを受取ろうとした桜は、急な眠気に襲われた。欠伸を噛み殺して、お茶を一口飲む。
「…どうした?」
「ちょっと眠くなってきちゃった」
顔を覗き込んでくる秀吉に笑いかけるけれど、どんどんと頭が重くなってきて。抗えないほどの睡魔が桜を襲い、まぶたが下がってくる。