第2章 信ずるは良し、信じないのはもっと良い
「もー、急に鬼ごっこなんて見た目に似合わずお転婆だなぁ」
お兄ちゃんも混ぜてよぉ、とおそ松が近づいてくる。
飄々とした笑顔を浮かべているが、どこか威圧的な雰囲気を感じる。
思わず後退りしたくなるが、負けじと一歩踏み出す。
おそ松の背後、大通りにはすっかり人影がなくなっていた。
恐らく先ほどの銃声は、大通りを行き交う人々を散らす目的だったのだろう。
回り込まれていたこともだが、多数の一般人の前でで発砲する大胆さに驚いた。
無鉄砲向こう見ず、と心の中で悪態を吐く。
お互いの距離が十メートルほどのところで私は立ち止まった。
足元には裏路地にあったのと変わらない木箱が落ちている。
バッグから取り出していたスマホを操作し番号を入力する。
「ん?そろそろ降参?」
立ち止まった私を見て、おそ松が言う。
確かに、と私は思う。
道は狭くはないが、さすがにこの状況ですり抜けられる自信はない。
ここを抜けることができて大通りに出ても、人がいないのでは振り出しに戻ったも同然だ。
このまま睨み合っていてもいずれ彼らの仲間が来て捕まるだろう。
相手のうち一人でも追う気を失うくらいの負傷をしてくれればまた違ったのかもしれない。
だが、丸腰の状態ではそれも難しい。
後ろから足音が聞こえる。
下を向き、長らく走ってまだ上がっていた息を整えるように深呼吸する。
大丈夫、大丈夫。
何度も頭の中で繰り返してきた言葉に縋り付く。
顔を上げ、右足を後ろに下げる。
何かを察したのかおそ松が銃口を向けてくる。
私はそれを無視して、足元の木箱を思い切り蹴り上げた。