第1章 カードの手が悪くても顔に出すな
ここにいない兄の悪口を笑顔で放つトド松に苦笑していると、正面の扉がドンドン、とたたかれた。
「はーい、今開けるよーって」
とトド松が扉に駆け寄り、開けると、両手にたくさんの紙袋を抱えた二人の男性がなだれ込んできた。
一人は先ほどの黄色いシャツの男性、もう一人は他の二人と同じ顔で、赤いシャツを着ていた。
二人は私の目の前までくると、持っていた紙袋をドサドサッと床に落とす。
その様子をトド松は扉の前で鼻を押さえ、座り込んで見ている。
どうやら勢いよく開いた扉に顔面をぶつけたらしい。
「もう起きて平気なの?いやーよかったよかった!
あ、これ食べれそうなのいっぱい買ってきたんだー」
赤いシャツの男性が嬉しそうに話しかけてくる。
その声を聞いた途端、原因のわからない冷や汗が背中を伝った気がした。
『すみません、ありがとうございます』
なんとか平静を装って返事をするが、目を合わせられない。
と、黄色いシャツの男性が顔を覗き込み、話しかけてきた。
「顔色悪いね!大丈夫?せいりっ」
と、言いかけた所でいつの間にか立ち上がっていたトド松が後ろから口をふさぐ。
なんとなく、彼が悪意をもって言ったわけではないということはわかった。
「だめだよ十四松兄さん!女の子にそういうこと聞いちゃ!」
一瞬、私の動揺がバレたのかと思ったがそうではないらしい。
苦笑いしつつ答える。
『大丈夫ですよ。
さっきはありがとうございました、えっと、十四松さん』
名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、十四松は二カーッと笑って仁王立ちのままぺこり、とお辞儀する。
「はい!十四松です!
どーいたしまして!」
気づくと私もつられて笑顔になっていた。