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【刀剣乱舞】守護者の恋

第1章 守護者の日常


「加州さん」
「ん?何?」
「爪、その」
「……っ!」
加州は慌てて手を後ろに隠す。
濃い紅色は彼の指先によく似合っているけれど、少し光に当たったそれは、いつもと違って美しさに欠けるように思えた。色が悪いのでも塗り方が悪いのでもない。基本的な爪のコンディションの問題だと、女性である束穂は気づいてしまったのだ。
「少し、爪の調子が悪そうですね」
「ン……なんかさぁ、ちょっと、爪が凸凹してるんだよね」
自分が口を出すのはどうだろう、と少し物怖じしつつ、束穂は勇気を出してアドバイスを口にした。
「そういう時は色を落として、少し爪をお休みさせた方が良いですよ」
「えぇー?だって、綺麗にしてたいじゃん」
綺麗にしたい。着飾りたい。
加州はそれをよく口にする。
それらへの執着は、いつも可愛らしくしている乱やきっちり化粧をしている次郎とはまた違うものだと束穂は薄々は気づいていた。
だからこそ、彼が「いつも綺麗にしている」場所を、こうやって背に隠さなければいけない事態を見過ごせない、と思う。
「今日は馬番ですか。もしお時間あれば、お昼ご飯の後で、離れに来ませんか?」
「……なんかしてくれるの?」
ちょっとだけおどおどした声音で加州は上半身を軽くまげてわざと上目遣いで束穂を見る。
「はい。お手入れしましょう」
「ほんと?」
お手入れ、という言葉に彼は抵抗はないようで、一転してぱあっと明るい表情を見せた。
「はい」
「みんなには内緒でも?」
「いいですよ」
「へへー、こんなことならもっと早く束穂に相談しときゃーよかったな」
「それは、終わってから判断してください」
「はいはい」
あまりハードルをあげられても、と思ったが、加州のその嬉しそうな表情を見れば出来る限り応えたくもなるものだ。
束穂は、離れに来るときにいつも使っているアイテムを一緒に持ってきてくれと頼んだ。加州はそれへは「はいはい」と快く、いや、半ば浮かれて相当適当に相槌をうってその場を軽い足取りで去っていった。
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