第11章 本能寺(長谷部の章)
宗三左文字。
天下人の手から手へと渡っていった刀。織田信長に刻印をいれられた刀。
数奇な運命、という言葉を刀にも使ってよいのかどうか、束穂はよくわからない。が、審神者はそう表現をしていた。そして、天下人の手から手へ、という意味では薬研も同じような過去を持っているとも束穂に教えてくれた。
「他にも、信長と因縁がある刀はいるけどね……」
ぽつりと最後に彼が告げた言葉を束穂は追及しない。自分はそういう立場ではない。そう心に言い聞かせて、子供じみた好奇心に蓋をしたのだ。
その晩、長谷部が率いた本能寺行きの部隊は、夕食の時間になっても戻らなかった。
夕食後の時間、大部屋でみなが心配しているところに審神者は顔を出した。
いつもと変わらぬ声音で「大丈夫だ。誰一人まだ欠けていない」とはっきり断言する。みなの動揺を少しでも軽減したいという思いもあるが、誰も欠けていないことは本当だ。出陣している刀達の状態を把握することは出来ないが、自分が顕現させた刀がまだ付喪神として存在しているかどうかぐらいは感じ取ることが出来る。
それから、審神者は離れにいる束穂を部屋に呼び出した。
「ちょっと力を貸してくれるかな」
「はい」
彼女が守護者という立場であることを周知したおかげで、みなの前でそんな会話も出来るようになった。審神者の部屋には加州と宗三が同席している。
「いつもここに帰ってこれるように印をつけておくんだけど、それを見つけられない状況なのかもしれない。少し、過去への道を開きっぱなしにしておくから、その間ちょっと付き合って欲しい」
「開きっぱなし……えっと、それはその道に入り込むものを防ぐという感じで?」
「察しが良いね。彼らのための道をほかの者が使う可能性はゼロではない。わたしは道を開いて行き来出来るが、それ以上のことは出来ないからね」
「はい」
二人の会話の内容はわからないけれど、なんにせよ長谷部の部隊のために、審神者と束穂が力を使う、ということだけは理解したようで、加州と宗三は心配そうに二人を見る。
「束穂、時間がもしかかれば、明日の朝ごはん……」
「インスタントの味噌汁をごはんにかけて食べるのを、どうも、陸奥さんと獅子王さんが好きみたいです」
「ふはっ」
僕はごめんだ、と歌仙や青江が言う姿を想像して、審神者は笑った。
