• テキストサイズ

【刀剣乱舞】守護者の恋

第8章 本丸の最期


数日後、三日月は深い傷を負って戻ってきた。
「食事をとりたい気分ではなくて」と告げ、三日月は部屋で横たわった。
彼の傷は見た目は人間の傷と同じように見えるけれど、根っこの部分ではそうではない。「手入れ」と呼ばれる行為は刀の魂の修復と、人間の体と刀身を結びつけての修復を行うのだと審神者に聞いたことがあったが、束穂には理解が出来ない。
それでも、せめて表向きだけでもと、束穂は三日月の傷の手当をした。血が止まった部分を消毒して包帯を巻き、血が止まらぬ場所は方法を調べて止血を処置し、鎮痛剤を飲ませて。
「もう、やめましょう」
「……うん?」
枕に頭を置く三日月の前に、正座をして懇願をする束穂。
「明日は、出陣なさらないでください」
「はは、それは飲めぬ相談だな」
「明日には折れてしまいます」
「うん。そうかもしれないな」
「折れてしまっては……」
「出陣を続けよと、書いてあった」
そう言って、三日月は苦しそうに、けれど、ふわりと微笑む。
「でも」
「俺は刀だ。主が戦い続けるというならば、拒むことは出来ぬ」
拒むことが出来ない。それは本当のことなのだろうか。
あの美しい人の遺言に縛られて戦い続けているけれど、このまま出陣しないで消えるその時を待つことが本当に出来ないのだろうか。
「添い遂げようと思っていらっしゃるのですか」
するりとそんな言葉が口から出て、束穂は三日月を見つめた。は「あっ」と己の迂闊さに焦った。
三日月は美しい瞳で束穂を見上げる。
「不思議なものだ。刀は人の手から人の手へと渡り、ここが最期、などと思う場所にたどり着くことはなかなかないのだが」
「……」
「ここが最期でも良いかな、と少しだけ思ったのは事実だな。折れたいという意味ではないのだが。人の体を得て、主と意思疎通を図ることが出来る幸せを味わった後で、それが出来ぬ身に戻るのはつらいものよ……咲弥、少しだけ」
「はい」
「少しだけ、頭を撫でておくれ」
あの人が、時々そうしたように。
その言葉を彼は続けなかったけれど、束穂は三日月を見つめた。にはそう聞こえたような気がする。
さらさらと流れる髪に優しく指を差し入れてなでると、三日月はぽつりと
「人が人に触れる意味も、少しばかりわかる気がするなあ」
と呟き、そのまま眠りについた。
/ 160ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp