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【刀剣乱舞】守護者の恋

第8章 本丸の最期


その日の本丸の夜は静かだった。
刀達はずっと規則正しい生活をしていたからか、審神者を看取って朝まで起きていたのがどうも響いているようで、石切丸も三日月もいつもより早く床についた。
束穂も、まるで現実から目を背けるかのように、横になってあっという間に深い眠りに陥った。暗い世界に落ちる瞬間、こんなに悲しい日でも体が疲れていれば眠くなってしまうのか。それを薄情と呼ぶ者が世の中にはいるのではないか。そんなことをちらりと考えつつ。
「……少し、早い」
明け方、4時。
夏近くとはいえまだ薄暗く、月は色を失って白い輪郭だけを空に形作っている。
のどが渇いた。束穂は部屋を出て台所に向かう。
(なんだろう)
あまり気を張りつめていないというのに、何か自分がいるこの空間が「様子が違う」ように思え、そうっと台所を通り過ぎて他の部屋の前に続く廊下へ向かった。
すると、審神者の部屋前の縁側に人影が見える。
「三日月さん」
「咲弥。起きてしまったのか」
「はい。どうかなさったのですか」
その部屋には既に彼女はいないのに。
そう言いたくなるのを堪えながら、束穂は三日月に近づいた。
「咲弥。朝食は、わたしの分だけで良い」
「え」
「先程目覚めたら、石切丸も、行ってしまっていたよ」
「!」
あまりに穏やかな声音は、まるで世間話をしているようだ。それぐらい、三日月はいつもと変わらぬ様子で言葉を発していた。
「今日から一人で出陣をする。なに、石切丸が作ってくれた刀装達が沢山残されている。わたしが消えるまで役立ってくれることだろう」
「おひとりでは」
「折れないようにと小言を言われたし、うん、気を付けよう」
もう出陣をしなくても良いではないですか。
そう言いそうになって、束穂は喉元でその言葉を必死に止めた。
出陣をしなければ、もう三日月がいる必要性はなくなってしまう。
(こんなにも早く小狐丸さんも石切丸さんもいなくなってしまったのだから)
だから、きっと彼も今日明日には消えるのだろう。
一日二日の単独出陣ならば、なんとかなる。
「わかりました。くれぐれも無理なさらず……」
束穂はそう言いつつ「無理なさらずとはどういう意味だろうか」と己の言葉のしらじらさに呆れた。
三日月は「ああ」と静かに答え、それから、庭の桜の樹をずいぶんと長い時間見つめていたのだった。
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