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【刀剣乱舞】守護者の恋

第6章 咲弥という守護者


晩春、少し風のある夜。
束穂は、彼女のために羽織と温かい茶を運んでいた。手入れ部屋の前で夜半頃まで、きっと審神者は三日月を待つのだろう、と。
廊下の角を曲がろうとして足を止めた。審神者と三日月の会話が聞こえてくる。
「葉桜と月も良いものです」
手入れ部屋の前の縁側で庭を見つめ、穏やかに語りかける審神者。
既に桜の花びらは相当散って、次の季節のための緑をそこここに見せており、世の人々は「今年の桜も終わりだ」と言うだろう光景だ。
「うむ。たとえ、花がなくとも、桜の樹は年中美しいものだ」
「三日月はそう思いますか」
「そう思う」
「わたしも、そう思うのです」
「それは嬉しいことだ」
その時、束穂はその場でまさに「足がすくんで」動けなくなった。能力ゆえに追いかけられ、恐怖で足がすくんだことがあった。けれども。これは、恐怖とは違う。
ああ、この美しい女の人は、三日月を愛しているのだ。
理屈ではなく直感でそれに気づき、生きていて初めて感じるほどの大きな衝撃を受ける束穂。
手入れ部屋から聞こえる声は随分近いと感じる。
三日月はどう思っているかはわからないが、少なくとも今この時間を愛しんでいるに違いない、と思う。傷がまだ癒えなくとも。そっと、縁側の審神者に近づくようにこちら側に寄っているのだろう。
自分は、今この世界で二人の邪魔をするのではないか。そう感じて、それ以上束穂は進むことが出来なくなった。
だが、その時、遠くで夜の鳥がひと鳴き。
「束穂、ありがとう」
鳥の音が引き金となったのか、彼女は角で立ち尽くしていた束穂に声をかけた。束穂は無言で頷いて近づくと、彼女の肩に羽織をかけ、それからまだ湯気の立ち上る茶を傍らに置き、静かに頭を下げてその場を去った。
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