第6章 咲弥という守護者
「本当に、とても美しい方でした。みなが、あの方がいなくなっても、あの方がいらっしゃった空間を見つめる視線は優しくて……わたしがもっと、もっと、繊細に力を制御出来ていれば、あの方にあんなに負担をかけずに済んだはずだったんです」
束穂の言葉の意味を、審神者は正しく理解をした。
もっと、束穂が繊細に力を制御出来ていれば。
その審神者は、急死せずに済んだ、いや、少なくとももう少しの期間、生きていられたのだろう。
だが、それが何だというのだ。その「もう少し」がいかほどのものか、測れる者はどこにもいやしない。明確にわかるはずもないことに、何故そこまで束穂が囚われ続けなければいけないのか、と彼は言わずにはいられないのだ。
「頭巾は、かぶり続けます……何かで自分を抑えることが、わたしにはまだ必要ですから……」
審神者はゆっくりと体を起こした。
「そうか。それは、顔を隠すだけでなく、君自身の心の抑えにもなっていたのだな」
「わたしはまだ未熟なので……こうやって何かで暗示をかけていないと、不安で仕方がないんです」
彼女は頭巾の下で瞳を閉じた。
目の前の審神者を責めるつもりは毛頭なかった。だが、なんだか。
何もかも投げ出したい。そんな衝動に駆られ、自分を律することが難しく思えて、目を開けていたくなかった。この世界を僅かでも視界にいれることすら、今の束穂には苦痛に思えたのだ。