第6章 咲弥という守護者
「もしかして、わたしのために無理をなさっていたのですか」
審神者の部屋で、束穂はうなだれた。
知っている。以前の審神者は三条に縁があって、更にあまりに強い力を持っていたからこそ、あの三振を呼べたのだと。
政府から、審神者としての力を持つと認定されているのは、ほんの数人。
最も力が強い「試験的に本丸を作らされた」今は亡き一人目の審神者。
力の強さはほどほどであるが、より安定して多くの刀達を運用できる、この本丸の審神者。
他にもいるけれども、他の者たちがこのプロジェクトに併用して登用されているかはトップシークレットだ。
どちらにせよ、二人の審神者を見てきて、それぞれの能力の違いを良く知っている束穂は、彼の能力では鍛刀で小狐丸を呼び寄せることが相当に難しいとわかっていた。
だから、ほんの少し「来たるべき時はまだまだ先」だと甘く見ていたのだ。
「そういうわけでもないし、そういうわけでもあるかな」
病み上がりゆえに疲れた、とごろりと横になって昼寝用枕に頭を乗せた彼は、苦笑いを見せる。
「わたしには、君が以前の本丸で出会った刀達と本当は会いたいように見えたからね」
「そんなこと……」
「会いたくなかった?」
「……」
会いたくなかったと言えば嘘になる。
けれど、会うことが恐ろしいと思えたのも事実だ。
束穂は思いを整理することが出来ず、彼の質問に押し黙った。これでは子供と同じではないか。ちらりとそう思ったけれど、だからといってどうしようもない。
「わたしはあまり踏み入ったことを聞いていないし、過去の本丸で起きた出来事は厳重に秘密が守られていて、君を救ったわたしにすら情報公開はされていない。けれど、どうにもよくわからないんだよ」
決して責める声音ではない。
審神者は優しく束穂に語りかけた。
「きみは悲しい思いをしたのだろうが、きみ自身が本丸を壊したわけでもないだろう。小狐丸が、謝罪を不要と思っているように」
審神者の言葉はまっとうなものだ。
あの本丸は、審神者の急死によって終わりを告げたのであって、守護者として束穂の非で崩壊したわけではない。
なのに、何故束穂は殻に閉じこもるように、謝罪ばかりを口にするのだろう。
「とても、美しい方でした」
ぽつりと束穂は、返答とは思えない言葉を漏らした。