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【刀剣乱舞】守護者の恋

第5章 秘密の欠片


仕方がない、とばかりに審神者が
「……ここでは束穂と呼んであげて欲しい。咲弥という名前は、以前の本丸の審神者と共に葬られた名前だ」
そう言えば、小狐丸は「心得ました」と頷き、束穂の前で軽く膝を屈めて視線を合わせた。
「あの日、本丸に戻ることが出来なくて申し訳ありませんでした。二人は戻ったのでしょうか?」
「……」
束穂はしばらくの間、何も言葉を発することが出来ず、けれど、まっすぐにみつめてくる小狐丸の視線から逃げることも出来ず、その場で体を強張らせていた。
言葉が、うまく見つからない。
どうしたら良いのか、あまりのことに頭がうまく動かない束穂。
「束穂。頭巾をとって、涙をふくと良いよ」
審神者の声。
その言葉の意味もよくわからず、束穂は呆けたように「涙?」と呟いた。
側にいる加州が「これ使いなよ」と、昨日彼女がアイロンをかけて彼に渡したばかりのハンカチを無理矢理束穂の手に握らせる。
「ふふ、泣いていることすら気づかぬほど、この小狐丸との再会が嬉しいのか、それともはたまたその逆か」
小狐丸はそう言って小さく笑うと、動くことが出来ずにいる束穂の頭巾を勝手に両手でそっと後ろにずらした。
現れた彼女の顔の両頬は、涙で濡れている。
「着物も良いものですね。以前はもっと軽装でしたが。その様子では、ここには、石切丸も三日月も来ていない……ということか」
「はい」
間抜けなことに、その小狐丸の問いにだけは、馬鹿正直に束穂は答えた。
言葉を発して口元が動いた反動で、頬を流れていた涙があごを伝ってぽとりと彼女の足元に落ちた。

(あ。わたし。今、泣いてる……)

ようやく訪れた自覚。
そこからは最早抗うことも出来なくなり、ついに束穂は嗚咽を漏らした。
「何も……何も出来なくて……ごめんなさい……あんな形で……」
「おや。何を言うかと思えば。何も。何も。謝るのはこちらの方だというのに、何故自分が悪い風に言うのやら」
「だって……」
束穂はハンカチで顔を覆った。小狐丸はすっと体勢を戻して
「何か謝罪があれば、油揚げひとつで許しましょう」
と笑った。けれど、束穂はそれでも涙を止めることは出来なかった。
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