第5章 秘密の欠片
鍛刀で呼び寄せる刀の魂は、仮初の刀の中に魂を呼び寄せられ、審神者によって姿を現すまでに「自分が今どのような状況になっているか」のおおよそは把握をするものだ。だが、それでもみな「で、何で俺はここに?」と、名乗りをあげた後できょとんとすることが多い。
小狐丸には、それがない。そのことに審神者も加州も違和感を感じ取ったのだ。
けれど、審神者はそれ以上は追求せず、加州を呼んだ。
「小狐丸。こちらは加州清光。わたしの近侍を任せている。現在ここには君と同じような刀が30振いるので、彼に色々聞いて共に生活をして欲しい」
「ほう、30と。ぬしさまは相当なお力の持ち主のご様子……よろしく」
「あんまり面倒見はよくないけどねー?じゃ、俺連れて行くね。明日までは安静にしといてくれないと困るよ」
そう審神者に言って、加州は小狐丸を「こっち」と連れて退出をしようとした。
束穂は廊下で二人に道を譲って頭を下げる。
「彼女は束穂。ご飯作ったりお掃除したり色々やってくれてる」
「なんじゃ、守護者なのかと思ったがそうではないのだな。出来れば以前のように油揚げを頻繁に出してもらえると……」
加州と審神者、そして束穂の三人は、小狐丸の言葉で動きを止めた。
守護者。その言葉を知っているということは。そして、以前のようにとは。
やり過ごそうと思っていたけれど、仕方がない。
そう審神者は判断をしたようで、小さくため息をついてから、加州と小狐丸の背後から質問を投げかけた。
「小狐丸。以前の本丸を覚えているのかな?」
「ええ、勿論ですとも。とはいえ、ぬしさまが今のぬしであることは何の疑いもなく。ご安心を」
「そうかい」
「ちょっと、どういうこと?」
加州は小狐丸を見て、審神者を見て。
そして、束穂を見ようとしたけれど、察しが良い彼は寸でのところでそれを留めた。
だが、彼のその機転も甲斐なく、小狐丸はあっさりと告げる。
「勿論、前の本丸の守護者も覚えております。たとえ、姿を見せなくとも狐の鼻を侮られるのは困る。束穂と呼べと言うならばそれもやぶさかではないが、どちらの名が本当のものなのか。束穂か、それとも咲弥なのか」
さや。その名前は。
束穂はその場で立ち尽くして小狐丸を見つめる。
加州はどうして良いかわからず審神者を振り返り、懇願の視線を投げた。
