第17章 長谷部の選択2
「どうして、お前は泣いているんだ……意識がない時ぐらい、思い煩うことなぞないだろうに」
いいえ。起きられないけれど、意識はあるんです。
わたしは、夢の中でもいつも悲しいことが多くて。
みなさんの笑顔を見られることが、わたしにとっては嬉しいことで。
あなた方が主の役に立ちたいと思うと同じで、わたしもあなた達のお役に立ちたいのに、いつも、いつも、わたしは。
こうして、意気地なく泣いているだけで……。
……泣いている?わたしが?
ゆっくりとまぶたが開かれると、束穂の視界は驚くほどぼんやりとしていた。
それは、脳が、視力が回復しないせいではない。体の中にある液体は温かいのだ、と思えるような涙があふれていたからだ。
目を開けたことにより、つ、と頬を流れる涙に驚く。手でそれをぬぐおうとぴくりと動かせば、それまで、自分の手に触れていた何かが、まるで小動物が逃げるかのようにすっと離れていく。それが離れて初めて、今まで自分が触れていたものには体温があったのだ、と気づく束穂。
「……わたし……」
「気づいたか。主を呼んでくる」
「待って……あの……」
暗い室内だったが、見慣れた自分の部屋だということはすぐわかった。
無理をして倒れてしまったのか……あまりの情けなさに呆れる、と思う。
まだ朝になっていないのか。どれぐらい倒れていたのだろう。
布団の傍に座っているのは長谷部だ。
嫌だ。誰の部屋かなんて気にもせずに遠くの会話を聞いていたが、まさか、自分の部屋にみながいたなんて。
一気に意識が明瞭になってゆく。
「長谷部さん」
「なんだ」
「ずっと、ここに……?」
「まさか。つい先ほど一期と交代したばかりだ」
おかしい。
聞こえていた声は、加州と小狐丸と、そしてこの本丸の審神者。
だというのに、今、自分に声をかけているのは長谷部で、この部屋に彼はたった一人。
「出陣なさった後で……お疲れだったでしょうに……すみません」
「してない」
先程から長谷部は大層ぶっきらぼうだ。
別段そんな対応が初めてというわけではないが、何か怒っているようにも聞こえ、束穂は内心怯えた。
「え……?」
「お前が倒れて一日経っている。小狐丸が主に事情を話して、お前の時代にみなで戻ってきた。なので、今日は一日誰も出陣していない」
「……!」
いつか、どこかで、同じような会話をした。
