第13章 人の心刀の心(長谷部)
「っ……」
あまりにも直情かつ端的な長谷部の主張に、薬研は言葉を一瞬失った。
刀だから斬れる。
そんなことは薬研だって、誰だってわかっている。
けれども。
「改変の影響がたとえ8割に減ったとしても、俺が改変に関わることは承知。だから、お前は俺が手を出す前に早くここを去れ。鯰尾の傷も深い。早く戻るんだ」
薬研を巻き込む気がないことは、その言葉で明白だ。
刀だから斬れる、でも、だったら何故刀ならばそんな風に。
(刀は皆、折れる時は一人だ。でも、それは仕方がないことで)
主からあんなに言われても、長谷部は「誰か一人でも傷を負ったら、軽傷程度だろうが帰ること」を随分と納得いかなさそうだったことを、薬研は知っている。
彼のその気持ちは、刀らしい闘争心とその忠誠心に依るものだと薬研は知っているし、長谷部は他の刀に対しても「本来かくあるべき」と思っている節もあると常々思って吐いた。
だというのに、今の彼はそうではない。
お前も手伝えとは言わず、自分一人だけで。
それは手柄を一人で立てたいという虚栄心からではないのだろう。
刀らしさを口にしても、その発言は人らしく。薬研を巻き込まないように、自分の身勝手を十分承知の上で、そして残してきた三人のことも気遣って。
なのに、長谷部はやはり審神者の思いを理解できないのだ。
「だから、そういうことじゃねぇんだよ!みんなで、みんなで本丸に戻らなきゃ、意味がないんだ!はっ……」
長谷部、と続けたかったのだろう。
瞬間、ひゅっと妙な音を口から出し、直後に喉を抑える薬研。どんな激しい問答中でも、薬研の様子が尋常ではないことに気づかない長谷部ではない。
「……薬研?」
「こ」
「おい、どうした」
「で」
声が。
出ない。
はくはくと口を開け閉めするだけで、薬研の口からは声が出ない。
長谷部の顔が歪んだ。己の異常にいささかパニックになっていた薬研だが、その時の長谷部の悲壮な表情は忘れられない。
もし、薬研が芝居ではなく本当に声が出ないのであれば。
長谷部は己の本心を無理矢理折って、皆のもとに帰るしかないとわかったからだ。