• テキストサイズ

【刀剣乱舞】守護者の恋

第13章 人の心刀の心(長谷部)


「……シャワーを浴びてくる」
長谷部はそういうと、一度も束穂を見ずに廊下を歩きだした。多分、それは長谷部の逃げだ。束穂と話したくない、問答をする気はない、とこの場を逃げたに違いない。
胸の内をうまく口に出来ず、もどかしさに束穂は「ああ……」と小さく声を吐き出す。すると
「束穂、あれは、大体の刀の思考だよ」
と不意に声がかかる。驚いて声の主を振り返る束穂。
「薬研さん……!よかった。薬研さんも声が戻ったのですね……!」
そこには、審神者の部屋の障子をそっと開けて、顔をのぞかせている薬研の姿があった。
どこから聞かれていたのだろう、とちらりと思ったが、そうたいした話もしていなかったな、とそれについて束穂は尋ねなかった。
薬研はちょうど自分の身体が彼女から見えるぐらいの隙間を開けるのに、すい、と滑らかに障子を動かした。
「やあ、朝が来るな」
「はい」
そんな社交辞令のような言葉を交わしてから改めて本題に入る薬研。
「……あのさ、権力を持っている主ってのは大体金も持っててさ、折れたくはないけど、もしも折れても代わりがいると思ってる。俺っち達短刀や脇差なんかは特にね」
そう言って彼は軽く肩をすくめて見せる。
「そんでも、そうは思わない主が時々いて、権力も金もあるってのに、一本の刀をとても大事にしてくれる。そういう主への思いは、刀側にも伝わるもんだ。だから、今の大将のことがみんな好きなんだ。替えがいないと思ってくれてるのは凄くよくわかる。みんな、そう感じてると思ってたんだけどさ……」
でも、長谷部はわかっていないのだ。
薬研の言葉はその意を含んでいた。
頭巾の下の表情を曇らせてうつむきがちになる束穂を見てどう思ったか、薬研は穏やかに話を続けた。
「大将にも話さなきゃいけないから二度手間にゃあなるんだけど……だいぶ、昨日は迷惑かけちまったから、束穂には先に話しとくな」
/ 160ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp