第13章 人の心刀の心(長谷部)
「あのまま、長谷部さんと薬研さんとお別れすることになるのが悲しかったからです」
「何故だ?お前は小狐丸とも再会したし、次がないとも限らない。俺と薬研が刀に戻ろうと、誰かが歴史改変を止めれば、再び主に呼ばれるやもしれない。そもそも、俺や薬研がいなくともそう問題はないだろう」
ああ、やっぱりこの人はわかっていないのだ。
束穂は少しだけ悲しい気持ちになりつつ、いつもと同じ声音を出そうと努めた。
「本当にそう思っていらっしゃるのですか」
「俺がいなくなろうが、何も困らないだろう」
長谷部はもう一度意味が同じ言葉を繰り返す。
「どうしてそう思うんですか」
「他の回答は思いつかないが」
「ここでお別れしたら、二度目があるとは限らないじゃないですか。小狐丸さんのように再会出来る可能性があるからって、そんな」
「会えなくても問題ないだろうし、俺がいなくなったら俺はそこまでのものだった、というだけだ」
吐き捨てるような言い方は、自嘲を含んでいるようだ。
そんな言葉は聞きたくない、と束穂は思う。長谷部は、自分の言葉で自分が傷ついているように彼女には見えた。それが余計な勘ぐりだと怒られるかもしれないが、不思議と束穂には確信が持てる。
「……じゃあ、長谷部さんは誰かが欠けても何も困らないと思っていらっしゃるんですか?あなたの主が悲しまないと思っているんですか?」
束穂の言葉に長谷部はようやく反応を見せ、わずかに顔の角度を変えた。それは、振り返って彼女を見て話そうとしたが、その寸前にそれを止めたかのように。口から漏れ出しそうな本音を寸でのところでせき止めたかのような、不自然なものだった。
「そうだな……主は優しいお方だ。俺にすら情けをかけてくださり、まるで替えがないかのように扱ってくださる。あの方ならば悲しんでくれるやもしれん」
「まるで、じゃないです」
「それは、お前の推測だ。俺は俺の推測を口にしているだけで、主がどのようにお考えか本心を知ることは我らにはかなわない。断言できることではないだろう」
そんなこと。
束穂は苛立ち交じりで言葉をぶつけそうになったが、どんな言葉を彼に放てば良いのかがわからず、そのまま黙り込んだ。