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Umbrella【縁下 力】

第1章 Umbrella【1】




「家、どこらへん?送るよ」

歩きながらそう聞けば、彼女は素直に答える。
その場所は俺の家と同じ方向だった。

「じゃあ明日から雨の日は一緒に帰ろう。雨に毎日打たれたら風邪をひくだろ」

なんでそんなことを言ったのかわからない。
だけど口が勝手に動いていた。
彼女は大きな瞳を更に大きくして俺の顔を見る。
だんだん照れくさくなってきてそっぽを向いた。

そこから会話は何もなくて、だけど嫌な心地なんて一切ない。
しばらく歩いていると、隣から小さなくしゃみが聞こえた。
ついでに鼻水を啜る音も。
俺は軽くため息を吐いてカバンの中からタオルを渡す。

「拭きなよ」
「……ありがと」

今度は素直にタオルを受け取って、頭を拭きはじめる。
その間、その場所に立ち止まって彼女を見つめる。
「洗った方がいい?」「いいよ、平気」「わかった」

タオルをかばんにしまい、二人また歩き出す。

「ねえ!!」

歩きはじめて草々、彼女は何かに気が付いたかのように前方を指さす。
どうしたの、と聞けば彼女は言った。

「色違いのタイルがあるんだよ!!」

彼女が指さす地面には赤と白のタイルが無造作に散りばめられている。
色違いのタイルがあることくらい知ってるよ。
毎日この道を通っているんだから。
それがどうかしたの?

子供の様な無邪気な笑顔で、彼女は白い歯を見せて傘から飛び出した。
せっかく拭いたのに意味ないじゃん。
雨の中、彼女の声が響く。

「赤色のタイル以外踏んじゃだめだよ!」

再び下を見て、そういうことかと納得する。
小学生の低学年の時、俺も同じ遊びをしたことがある。
そう、小学生の遊びなんだこれは。
14歳になった今そんな遊びはしない。
だけど彼女は時折声を出しながら笑って赤いタイルだけを踏んでいた。

「マンホールはセーフね」

くるりくるくる。
まるで傘が逆さまになって回るように、彼女はマンホールの上で回った。
自然と笑みがこぼれて、彼女と一緒に雨に打たれながら
赤色のタイルを踏んでマンホールの上で踊った。

いつの間にか雨は止んでいた。
だけど、俺達は傘も閉じずに夢中で赤色のタイルだけを踏んだ。

それが俺達が仲良くなったきっかけ。
と話すようになったきっかけ。

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