第5章 Umbrella【5】
その日は朝から雨が降っていた。
夕方になっても止むことなく、ずっと降り続けていた。
「ねえ」
放課後、体育館へ行くと清水先輩に声をかけられた。
何だろうと思っていると先輩はを見なかったかと聞いてきた。
「てっきり先に体育館に行ったと思ったんですが……」
「……具合、悪くなったのかな」
「さっきまで元気でしたよ」
二人首をかしげる。
「先に体育館に行ってて」と言った俺に笑顔でうなずいたからすでにいるもんだと思っていたが、まだ来ていない。
何かあったのだろうか。
それとも清水先輩の言う通り具合が悪くなったのだろうか。
「ちょっと探してきます。大地さんには……」
「私から言っておく」
「ありがとうございます!」
何か嫌な予感がした。
ざわざわする胸。
この感覚は何度も味わってきた。
消したくても消えない傷み。
忘れてはいけない苦しみ。
息を切らしながら廊下を走る。
先生に見つかって遠くから怒られたけど、今はそんなこと気にしていられない。
教室の扉を開ける。
帰宅部たちが俺をみて「どうした」と聞いてくる。
「見てないか」
「いや、見てないけど……どうした?」
「なんでもない。サンキュ」
教室にいない。
裏庭にもいない。
グラウンドにも。
胸が締め付けられる。
既にすれちがいで体育館にいるのだろうか。
「まさか……」
俺の頭の中に浮かんだ場所。
それは的中してほしくない場所
だけど当たってしまった。
昔は教室だった場所。
だけど今は使われていない教室。
そこに彼女はいた。
数人の女子に囲まれて。
思い出してしまったあの日の出来事。
あの人同じように彼女は罵倒と暴力を受けていた。
まさか高校になってもこんなことがあるなんて思わなかった。
ましてや自分が通う高校で。