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Umbrella【縁下 力】

第2章 Umbrella【2】





1月。
長い冬休みが終わる。
受験生の俺に冬休みなどあるはずもなく、毎日のように学校に行っては受験勉強の毎日。

と言っても俺はすでに受験に合格している。
推薦枠として。
だけど、一般受験の人もいるためそう言う人の邪魔にならないようにと、春になって高校での授業に置いて行かれないようにと、いろんなこじつけを押し付けられた結果、合格が決まった後もこうして受験勉強をしている。

「あ」

図書室で一人勉強をしていた俺の目に飛び込んできたのは、がびしょ濡れで廊下を歩いている姿だった。
今日が一日中晴れで雨なんて降らない。
その証拠にお天道様は真っ青な顔をのぞかせている。

俺は図書室の扉を開ける。
水が滴る廊下を追いかける。
廊下の曲がり角をまがった階段の下、彼女はぺちゃりぺちゃりと音を鳴らしながら階段を下りていた。

「」

声をかければ驚いたように振り返る。
やさしく微笑んでやれば、何か悪さをして見つかってしまった子供のような顔をする。

「そんなに濡れてどうしたよ。水遊びか?」
「……」

言葉も発しなければ首も振らない。
ウソつくの下手くそだもんな、お前。
いじめられてんだな、本当に。
の手に握られているうち履きには、汚い字で汚い言葉が散りばめられていた。
前の学校でもいじめられて、ここでもいじめられて。
お前の精神はもうズタボロだろうな。

「……帰るか」

階段を下りて、俺はに近づく。
俯いたまま何も言わない彼女の手を握って一度図書室へと行く。
荷物をまとめて再び彼女の手を握る。
俺が歩けば歩き出す。
半歩俺の後ろを歩いている。

真っ青な空の下、後ろからは時折鼻を啜る音が聞こえてきて。
俺の心がずきりと痛んだ。
何で俺が傷つく必要がわるのかまったく一切わからないが、には笑っていてほしいと言うのが本音だ。

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