第1章 新たな物語
「いくぞ」
その目は今まで見たこともないような鋭い目をしていた。
再び剣を交える二人。
斎藤さんに向かって飛び出す緋村さんは、もう一度壁に叩きつけられた。
ゆっくりと立ち上がる緋村さんの呼吸が激しい。
身体が追いついていない……。
そう思っていた。
先ほどまで激しかった呼吸が静かになる。
顔を上げる緋村さんの瞳は今までみたことないほど鋭く冷たい。
「正真正銘の牙突。手加減なしだ」
今まで手加減していたのか。
この人の強さはどれほどなのだろう。
斎藤さんが飛び出る。
緋村さんはそれを避けると同時に半回転し、その遠心力で斎藤さんの背後に一撃を食らわした。
斎藤さんは額から血を流しながら
「本当は力量を調べろとだけ言われていたが、気が変わった。
もう殺す」
「寝惚けるな。"もう殺す"のは俺の方だ」
私は何も言えなくなった。
薫さんはその場に崩れる。
違和感があったのはこれがあったから。
その時代の緋村さんを見ていないから本当かどうかはわからない。
だけど、不殺の流浪人と言っていた彼が今"殺す"と言った。
人斬り抜刀際の頃に戻ろうとしている。
「止めて!誰かあの二人を止めて!!」
薫さんの言う通りだ。
今あの二人を止めないと後悔してしまう気がする。
「無理だぜ、嬢ちゃん」
聞きなれた声に私は顔を上げる。
そこには恵さんに支えられた左之助さんがいた。
ボロボロの姿に私は泣きそうになる。
「俺達には止められねェ……。剣心たちは、完全に明治の東京でなく幕末の京都の中で闘っている」
いくら叫んでも私たちの声は彼らには届かない。
彼らを止められるのは、幕末の動乱を行き抜いた人か激動の京都の一部を味わった人だけだと左之助さんは言う。
闘いは続く。
二人とも血を流してボロボロなのに、やめようとしない。
余力だってもうないのに、それでも彼らは闘いをやめない。
どちらかが倒れるまで戦い続ける。
それが幕末の時代なんだろう。
信念の為……。
自分の信念を貫きとおす姿がこんなにボロボロで胸が締め付けられるほど悲しいなんて知らなかった。
知らず知らずのうちに私の頬は涙で濡れていた。